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□月明かりの下で
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「上様今日こそは公務をきっちり行って頂きますよ」
江戸の城下町へ行く準備をしている俺に老中の大和は大量の巻物を抱えて現れた。

「またその様な格好をして!いいですか上様、上様の仕事は城下町の様子を見て不正を暴くことではございません!!この溜まりに溜まった公務を片づけることなのですよ!!」
毎度毎度、同じ事をいう大和がいる方の耳を思わず塞ぐ。

「耳にタコができてる」

「そーでしょうとも!!本当に毎日毎日…私にとっては馬の耳に念仏でございます!!大体南町奉行の畑案山子がきちんと仕切っておりましょうに、上様がわざわざ出向くこともありません」
「あいつの所に話を聞きに行くのだよ」
「出向かせれば良いではありませんか!!」
「今は南町奉行担当月だから畑も暇ではないだろう」

あーいえばこう言う遣り取りは毎回繰り広げられ、そして老中が折れ佐助である上様が勝利する。

「お帰りになられたら必ず目を通して頂きますよ」
「わかっている」


そう言って、佐助は普段から歩きなれた抜け道を使って城下町に降り立った。


数寄屋橋内の方に足を向けながら賑わうそこを見回し、ある薬種問屋の看板に目を細めた。
今一番売上が伸びている薬種問屋「薬師」しかしどうもきな臭い噂が転がり込んでくる。
佐助は足を速めて畑が居る南町奉行へと向かった。




「いや〜まさか佐助様がわざわざ足を運んで下さるなんて、お手間掛けてすみません」
全然悪いと思っている様に聞こえない畑は足早に動き回っている。
「薬種問屋の件どうなっている?」
「あ〜〜あった、あった…これを見てください」
そう言われて手渡された紙を受取目を通す。
ー…裏帳簿の存在。薬の調合の際不純物にて嵩増し。
「叩けば叩いただけ出てくるな」
「ですね〜まだ裏付けが取れないのが厄介ですけどね?」
「そろそろ桜と斉に仕掛けさせるとしよう」
「そうして頂けると助かります。佐助様の御庭番は本当に優秀ですから」
そう言って笑う畑に紙を返し、南町奉行を後にした。


人通りの少ない所に着くと夫婦の様に中睦まじく見える男女が佐助の前に現れた。
「斉、桜先刻の話聞いていたな?頼むぞ」
『御意』
すれ違いざま会話をし、何事もなかったかの様に通り過ぎていく。
佐助は一旦城に戻り、公務をした後でまた来ようと考えて城へ戻って行った。



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