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□人生はそれ程甘くない
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甘い香が街を被う。
アカデミー生らしき少女達が色めき立って買い物をしている。
何年か前の自分を彼女らに重ね、サクラはうなだれた。
幼い自分が、こっぱずかしかったのだ。
毎年毎年、イノや他の少女達と競って、サスケにチョコレートを渡そうとしていた自分。
サスケと付き合う事を夢みていた自分。
どうしてあんなにも無邪気にいられたのか。
振り返ってみれば、サスケの境遇に等まるで無関心に、ただ自らの恋心を押し付けようとばかりしていた。
馬鹿みたいだと、それは口をついて出ていて。
「なに?なんか言った?サクラちゃん?」
隣を歩くナルトに拾われていた。
「あっ。ううん。何でもない。」
急いで笑ってごまかして、怪訝に眉をしかめるナルトをやり過ごす。
そういえば彼は、あんな馬鹿だった自分の一生懸命さが好きだと言ってくれたのだ。
彼の事等、まるで興味の無かった自分は、まともに彼を見返した事も無かったのに。
そう思いだし、サクラはまたドツボにはまる。
彼の本質にまるで関心もしめさず、ただの出来損ない扱いをしていたのだ。
思い返せば返す程、罪悪感が胸を被う。
チョコレートの甘い香と相まって、それは蒸し返す様な不快感だ。
「ねぇねぇ、サクラちゃん。もうすぐバレンタインだけどさ、サクラちゃん…チョコレートくれる?」
期待感を滲ませて窺ってくるナルトに、サクラは大きくため息を吐き出した。
そろそろそんな事を言い出すだろうとは思っていたのだ。
時期的に。
二年間離れていたナルトに、今年はプレゼントしてあげたい気持ちが無いでは無かったが。
「残念だけど…アタシ、チョコレート大っ嫌いになったのよ。」
サクラは力強く言い放つ。
「え!?えぇー?」
「もう二度と見たくも無いほどに!」
「な…どうして?!昨日は美味しそうに食べてたってばよ。」
「ほんの5分位前から嫌いになったのよ。」
「ええ゛〜?」
不得要領な表情のナルトに、それはそうだろうと思う。
しかしサクラは、もう金輪、バレンタインチョコなど御免だと思ってしまったのだ。
クッソくだらねぇ!
と、内なるサクラが叫んでいるのだ。
「とにかく。今年はバレンタインは無し!いいえ!私の人生には二度とバレンタインなんか来ないのよ!」
別にそれで過去が清算されるわけではないが。
こんな甘ったるい行事に等振り回される自分で有りたくないと。
胸のムカつきを全て吹き飛ばさんが如く、明瞭に。
落ち込むナルトを少し可哀相にも思うが、多分彼には別口からのチョコレートが幾らかは届くだろうから。

良いのだ。
 

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