Gift

□何ものよりも何よりも
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「なぜ私がこんなところで、こんなことを……」
黄鳳珠はその類まれなる美貌をうっすらと曇らせて、ほぅ、と溜息をついた。絵にも描けない美しさとはまさに彼のことだ。
憂いを含んだその艶めかしすぎる表情は、大抵の者を失神あるいは自我崩壊させるだけの威力を持っていたが、残念なことに今彼の横にいる男にはソレもまったく通じなかった。
「そうだろう、これ以上ない素晴らしい光景だろう、鳳珠! 私と共にこれを見れるということを光栄に思え!!」
……というか、自分の嫌味にそう返してきた男には、言葉すら通じてない、と鳳珠は思った。
鳳珠が「こんなところ」と評した場所、そこは「窓の外(しかも他人の邸の)」だった。そして「こんなこと」とは、何を隠そう「覗き」である。何が悲しくて自分はこんな男と一緒に壁に張りつき、不審人物よろしく他人の一家だんらん風景を覗き見なければならないのか、と鳳珠は再び溜息をつく。
「はぁ……。おい黎深、来たいのならお前一人でくればよかろう。もう私を誘うな」
黎深と呼ばれた男はその言葉に少しムッとしつつ、尊大にもこう言い放った。
「兄上が、『誰か連れてくれば邸に入れる』と仰ったのだ! 私一人で来れるわけないだろう!!」
彼は決して「こんなことを頼める友人は君しかいないんだ。頼むから付き合ってくれ」などとは言えない性格だった。
その視線の先には、二人より少しばかり年長の男性とその膝上に乗った幼女、そして妙齢の麗しき女性が円卓を囲んでいて、楽しそうに茶を飲んでいた。そのすぐ側ではやけに綺麗な顔をした家人とおぼしき少年が給仕役を務めている。実にほんわかほのぼのとした家族の光景だ。
「ああ秀麗、なんとかわいらしい……。あああ、兄上……!」
黎深はといえば、恍惚とした表情でその光景を眺めている(※窓の外から)。
何を隠そう、彼らは黎深の兄一家であり、ここはその邸であった。本来ならば窓の外から覗き見るなどという変質者まがいのことをせずともよいはずなのだが、そこはそれ、これはこれ、紅黎深は紅黎深、常識などどこ吹く風だ。……もっとも、邸内の者も二人のことには気づいていて、あえて見ないふりをしてくれているのだろうが。
「ああ兄上、何と羨ましい! 私も秀麗からお饅頭を食べさせてもらいたい……! あの小さな指ごとちゅぱっと……!! ――ああ秀麗、何と羨ましい! 私も兄上の膝に乗りたい……! あんなに密着して抱っこされたい……!!」
なんともアブナイ発言をうわごとのように繰り返す黎深は、頬を紅く染めてうっとりと彼らを眺めている(※しつこいようだが窓の外からだ)。そんな友人を横目で睨み、鳳珠はまた溜息をついた。
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