捧色の間5

□宝物はいくつ?
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・・・―――「あのな、黎深様が子供達に会いたいって。だから楸瑛、明日のお休み、紅家に行こう?」


「え・・・」


楸瑛は一瞬、思考が停止した・・・


楸瑛は決して黎深が嫌いではない

嫌いではないのだけれど、むしろ黎深が楸瑛を嫌っている

というか目の敵にされている・・・


結婚して何年も経つけれど、今まで紅邸に行って、楸瑛が落ち込まずに居られたことはない


絳攸の『黎深様大好き!』はもう今更といえば今更ではあるのだけれど、それでも毎回毎回、絳攸の中の自分と黎深との差を見せ付けられているようで落ち込むのだ


けれど、それでも・・・

「よかったね、黎深殿とも百合姫様ともゆっくり出来るね・・・」

楸瑛がそう言うと、

「うん!!」

子供みたいに嬉しそうに絳攸が笑うから、結局いつもいつも、絳攸の笑顔に負けて、楸瑛は紅邸行きを拒めたことは無かった―――





・・・―――「「お久しぶりですお祖父様、お祖母様」」



紅邸に着くとすぐに、きちんと挨拶をしたのは、瑛李と攸登・・・

朝廷で“氷の長官”などと呼ばれていることが信じられないような、明るい満面の笑みを浮かべて、黎深は2人の頭を撫でた


「少し大きくなったか?元気そうだな」

と声をかけ、もう1度微笑ってから、黎深は、今度は可愛い娘の隣に当然のように行き、そして目の不自由な絳攸をフォローしつつ当然のように、自分の隣に座らせた・・・

黎深の反対側の絳攸の隣は、これも当然のように百合姫が座ってしまい、いつも必ず絳攸の隣に座る楸瑛の席は無くなり、仕方ないから楸瑛は、絳攸の向かいに座ったが、この距離では、絳攸の視力では楸瑛の姿を見ることは出来ず、話をするには凄く不便な位置なのだ

瑛李と攸登も、それを判っていて、なるべく絳攸の近くにと、絳攸と反対側の、百合姫の隣に並んで座った

何故、楸瑛が座らなかったのか、理由は単純、黎深の隣も百合姫の隣も、気まず過ぎて間が持たないから・・・

さて、そんな楸瑛の気持ちも、絳攸の目のことさえも、多分、今ひとつ理解出来ていない、黎華はというと・・・


「だめ!かあしゃまのおとなりは、れいかなの!」

と、小さな身体を絳攸と黎深の間に割り込ませて座った


普段はとってもお父さん子な黎華なのに、今日に限って絳攸のほうに行ってしまい、楸瑛は、

「こっちおいで」と言いたくて、けれど黎深の刺すような視線が、言わせてくれなかった―――
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