捧色の間4
□望むのは君の声
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・・・―――大好きだよ、君が・・・
誰よりも、大好きだよ
でもごめんね
私は臆病だから・・・
・・・―――「出たわね、ボウフ・・・失礼しました。藍将軍、ここは主上の後宮ですが、貴方がいったい何のご用があるというのです?早くお仕事にお戻りなさいませ」
珠翠は、
『さっさと出ていきなさい!このボウフラ男!!』
と怒鳴りたいのを何とか堪えつつ、しとやかな女官長の顔で言った
楸瑛は、クスッと笑うと、それまで口説いていた女官に、ニッコリと、綺麗な綺麗な笑みを浮かべる
「それではこれで失礼しますね。美しい方と楽しい一時を過ごせて幸運でした」
と言い残し、後宮を出ていった
どんな言葉が女性の耳に心地よいのか、楸瑛は良く知っている
楸瑛の言葉が、あまりに心地良いから、女官達は気付かない
楸瑛が誰にも、『愛してる』はおろか、『またね』と、次の約束さえ、1度も口にしたことが無いことを―――
・・・―――後宮を出て、宮中を歩いていた楸瑛は、クスリと、仕方ないなぁ・・というように、優しく微笑った
「何処に行きたいんだい?絳攸」
「常春頭!」
そんな風に返されても、楸瑛は、楽しそうに
「私はそんな名前じゃないよ?で、迷子の子猫さんは何処に行きたいのかな?」
「うるさい!」
怒鳴る絳攸の目的地を聞き出して、何も言わずに歩き出すと、絳攸も半歩後ろをついてくる
君の1番近く
絶対に壊れない、安全な場所
「・・・女性の香の匂いがする。また後宮か・・」
絳攸が言うと、楸瑛は、意識して、綺麗に笑った
「君も来ればいいのに。美しい女性と過ごすのは楽しいよ?君なら絶対モテるのになぁ」
「そんなもん、行ってたまるか!!」
怒鳴る絳攸に、内心で安堵しつつ、楸瑛は、もう何年もずっと、動けずに居る
1番心地良い、1番安全な場所から・・・