その他著権駄文部屋1

□おかえり、ただいま。
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「…」

はあ…
正直
逃げ出したい
バイクのメットをバイクに置き
深い溜め息を洩らす

「はい。剛。」
「あ…うん。」

バイクの後ろに乗せていた姉からメットを受け取り

「部屋は此処の二階だからね。」

それは知ってる
何度か外からだけど部屋が何処にあるか見に来たことがあるから
そう口には出さず
姉の言葉に
小さく返事を返し
駐車場からエレベーターへ歩きだす姉の背を見つめながらも
このまま
走り去ろうかと考える
今更
今更だよな…

「剛」
「う、わぁ…はい!」

駐車場という場所で名を呼ばれ
予想以上に響いた声に
思わず驚き
慌てて荷物を担ぎ直し姉の後へと続く
エレベーターに共に乗り
ボタンを押す姉を見て
今だに
後悔していることに
また
溜め息が漏れた
本当は
逃げたい
進兄さんも
ねえちゃんも
特情課の皆も
…アイツも
許してくれた
認めてくれた
いや
端から
許すとか
認めるとか
そんな事はなかったんだ
だけど
気付けなかった
俺一人
ただ
ただ
空回りして…
ほんの数十分前もそんな事考えながら
皆の前に顔を出すのを躊躇っていたら
偶々
有給消化の為に休んでいたらしい姉に見つかった
見つかった…ついでにと言うのもアレだけど
俺が
宿無しということもばれた
めっちゃ怒られた。
自分で探すから!

ねえちゃんの誘いを断ったのは
…端からそれは建前だ
逃げ場所を
守りたい“家族”を逃げ場所にしたくなかったと言うのもあるし
マッハドライバーの操縦者に何とか選ばれた時に
博士から
マッハドライバーが身体に掛ける負荷の話を聞いた
もしかしたら
奴らとの戦いで無理をしたら命を落とすかもしれないと
…奴らを倒せるなら
大切な家族を守れるなら
命なんかどうでもよかったし
残すものもなかった
だから
何かを置いて置く場所もいらなかった
だから
その日
その日を
適当な場所で過ごしたり
偶に
ドライブピットに邪魔したりして過ごしてた
ねえちゃんに見つかって怒られて
そう言われて
適当に理由を付ければよかったけれど
逃げればよかったけど
…できなかった
結局
俺は駄目だった
自分自身で決めたことも貫けず
守ろうと決めていたのに
守れず
逆に傷つけて…
そんな自分が
嫌で
嫌で
仕方なくて…
だから
逃げたくて
でも
それさえもできなくて…
まともに
何もできなくて…
気持ちが落ち込む
だけどそれはエレベーターの独自の音で消された
エレベーターが目的の階で止まったようだ

「後で管理人さんにも挨拶に行くからね」
「ん…」

空返事気味に返事を返えしエレベーターから降りると

「こっちよ」


手を掴まれる
流石に
少し恥ずかしくなりながらも

「ちょ…ねえちゃん!」
「あんたさっきからぼんやりしすぎ!いい加減に観念しなさい!」

そのまま
叱咤され
手を繋ぎながら部屋へと続く通路を歩く
昔も
こうやって歩いたっけ…
繋いだのは部屋に辿り着くまでの短い間だけど
昔の事を思い出すには十分だった
ねえちゃんが部屋のドアを開け
玄関に上がる時には繋いだ手が離れたけれど
その時には気持ちがさらに揺らいだ
逃げたい
でも
逃げたくない
一緒に居たい
でも
一緒に居たくない

「剛?」
「あ…いやぁ〜。やっぱさ、俺と…弟と一緒に住んだらねえちゃん男の人呼べないよ?」

暗くなり始めた気分を払うように
あえて茶化す
茶化せば
真面目な姉は

「何で呼ぶ必要があるの?」
「いや…進兄さんとか」
「泊さん?泊さんはちゃんと暮してるでしょ?」
「そーじゃなくて…いや、まぁ…アイツ…とか?」
「アイツ…?あぁ、チェイスね。彼はドライブピットで出来るだけ居てくれるように頼んだでしょ?」

一々探すのって結構面倒だから
…。
姉の恋愛事情の先に一抹の不安を思わず覚え言葉が濁る

「あ、そっか…剛がお友達呼べないわね」

其処考えてなかった…
いや
其処じゃなくてね
ねえちゃん…
しみじみと考える姉に苦笑いが漏れる
俺が
俺がさ…
“本当”に言いたいのはさ…

「その辺りはまたその時に考えましょ!私“達”の家だもの」
「っ…」

その言葉に
胸が苦しくなる
本当に
本当に
“昔”みたいに戻れるかな
何も
無かったことに
出来ないんじゃないかな…

「あ、のさ…ねえちゃん…」
「?」

俺は…
俺が
ちゃんとやれていれば
ちゃんとしていれば…
元に
“あの頃”みたいに
戻れるって…
だから
だから…
頑張ろうと
頑張ってきたけど…

「俺…その…ご…」
「剛」

何とか
絞りだそうとした言葉を姉は

「おかえり」

優しい声音で遮った
姉の言った言葉に思わず姉を凝視するように見てしまった
そんな俺に
姉は気にする素振りもなく
優しく笑いかけてくれた
言葉はなくても
直ぐに分かった
あの頃には
戻ることは出来ないって
何も知らなかった
何もしなかった
あの頃には
もし
戻ることが出来ても
今までの事が
最初から無かった事になるから
だから
ねえちゃんは…
ねえちゃんも
それにとっくに気付いてるから
だから
元に戻らなくても
無かったことにしなくても
新しく
やり直すことは出来ると

「…っ」

泣きそうになった
本当は
元に戻したい
と言うこともあったけど
今までの
此処までしてきた
“頑張り”を
“色んな事”を戻したくない
無かった事にしたくないというのも
本当で
ただ
それを
認めて
欲しくて…
認めたくて…
泣きそうになるのを何とか堪え
目元を乱暴に拭うと

「た…ただいま!ねえちゃん」

少し照れ臭くなりながらも迎えてくれた姉にそう言えば

「おかえりなさい、剛。」

姉もまた優しい笑顔でそう迎えてくれた
それに感謝するようにありったけの笑顔を作り
靴を脱ぎ捨て
玄関へと上がった
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