その他著権駄文部屋1

□“過去”の手、“現在”の手・・
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「はじめまして、わたしはキリエ。あなたは?」
「……ネロ…」

差し出した手を恐る恐る握ってきた手は
とても小さかった




「キリエ!迷子になるなよ?」
「う、うん。」

久し振りに訪れた街の中心街
買い物なら近くの雑貨屋程度で済ませればいいだけなのだけど

「(兄さんの出世祝い…何か役立つ良いものが欲しいけど…けど)」

人が溢れるように街並を行ったり来たり
流れに逆らいながら目指しているから
途端に流れに攫われる

「(あ…ネロ!待って!)」

人込みの先を行く銀色の髪が目立つ。
距離は段々と離れ
伸ばした手は空を掴み転びそうになる
けれど

「きゃっ」

急に強く手を掴まれ、支えられた
その手は大きく、体温が低いのか少し冷たく感じた

「キリエ!大丈夫か?」
「え、あ…ネロ」
「ったく、迷子になるなって言ったばっかだろ?振り向いたら知らねぇ婆さんでまじ、びびった」
「え、あ…ごめんね」

その声はネロの声
その手はネロだった
初めて触れた時とは違い大きく力強い手だった

「とりあえず、人込み抜けるぞ」
「…うっうん」
「どうしたんだ?……っあ!」

手が離れた
触れた手を眺めている事に気付いたネロは顔を真っ赤にして慌てていた
けれど

「…い、いこうぜ。転んだら…大変だし」
「う、うん…」

ネロは赤らめた顔を遠くの方に向け手を差し出してくれた。
恐る恐る手を触れれば
静かに手が繋がる
繋ぎ人込みの中を歩く

「(大きな手…あの時は小さかったのに…)」

繋がる手を見つめながらも
感じる熱が何時の間にか自分にも伝わって
街道添いの店頭のショーウィンドウに映った自分の顔が真っ赤になっているのに気付いた。




「キリエ!」
「うん。」

差し出された手を掴み
並んで歩く
小さな手は何時の間にか大きくなっていて
手から伝わる体温が
心地よく感じた。

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