戯れ言

□歳をとるのも案外悪くないもんだ
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「誕生日おめでと」

「…………」

突然押し掛けて来たかと思えば、勝手に人のお茶飲んでおまけに菓子まで食ってるこいつが、まさか。
だって現に今も図々しく布団の上にうつ伏せに寝ているじゃないか。
いやいやいや、こいつが素直に俺の誕生日を祝う筈がない。
今のはきっと空耳だ、いや、幻聴に違いない。

「なぁ、聞いてんの?」

「何が」

「…だーかーらー、誕生日おめでとって言ってんじゃん」

「…………」

いやいやいや、今のは幻聴ではない気がする。
アレ、これ夢か。
去年だってその前だって、おめでとうのおの字もなかった。
そんなふざけた野郎のこいつが…。

「おい、何なんだよ、シカトか?シカトですか?」

「…今なんつった」

「だからシカトですか?って」

「その前」

「…誕生日おめでとー?」

「…………」

熱か、病気なのか、こいつは。
何なんだ、この生き物。
何が目的だ。

「オイ、いい加減にしろよ。何でそこでだんまりなんだよ」

「熱でもあんのか」

「はい?」

「お前が俺に、素面でそんな事言うわけねぇ」

「お前の中の俺はどんな奴なんだ」

「まさか、酔ってんのか」

「おいコラ、いい加減怒るぞ。人が折角祝ってやってんのに、熱だとか酔ってるとか言いやがって」

「それはお前の日頃の行いが悪いからだろうが」

「…あーそう。そういう事言っちゃうわけ」

「言っちゃうわけって…」

「今日は特別に、プレゼントは俺ねって上目遣いで誘ってやろうと思ったのに」

ばーかばーか、そんな事を言いながらもぞもぞと布団の中に潜っていく。
ふてくされるその顔が、とてつもなく可愛い、なんて言ったら殴られるだろうか。
思わず口を手の甲で隠す。
それに、滅多にないこんなチャンス。
この機会を逃したら、上目遣いでプレゼントは俺ね、なんて一生言って貰えない気がする。

「それは困る、俺が悪かった。だから」

プレゼント下さい。

そう耳元で囁けば、銀時の耳が僅かに赤くなったような気がした。

まずは、このにやける顔をどうにかしなければ。


歳をとるのも案外悪くないもんだ。





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