戯れ言
□April fool
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「……土方」
本当はすべて忘れるべきなんだ。
それが一番楽な方法なのに、頭の中はあいつの事ばかり考えて。
「…頼むから、消えてくれよ」
終わりにしよう、なんて聞きたくなかった。
あんな顔なんて見たくなかった。
もう思い出したくないんだ。
届かないなら、叶わないなら、顔も見たくない。
よくわからないこの気持ちを抑えようと机を蹴り飛ばすが、頑丈なそれは鈍い音がしただけで倒れはしなかった。
それよりも蹴った足の方が痛い。
八つ当たりをするように側においてあったリモコンを壁に叩きつけたが、そっちも壊れはしなかった。
「土方なんか死んじまえ」
そうすれば俺は忘れてやる事ができるのに。
「…お前の口は俺の悪口しか言えねーのか」
いる筈のない男の不機嫌そうな声が後ろから聞こえてとっさに振り返った。
「おま…、なんでいんの」
「居たら駄目なのか」
「いや、駄目っつうかお前さっき帰ったんじゃなかったの」
「気が変わった」
帰る前に着たばかりの上着を脱いで俺の頭にすっぽり被せる。
「…んだよ、それ」
「悪い、さっきの全部なし」
そう言って肩に回された腕は力強く、耳元で聞こえる声は熱かった。
「…っ、やめろよ」
触るなと抵抗すれば更に強い力で押さえつけられる。
「…なぁ、今日何の日か知ってるか」
「……………」
土方の言葉を聞いてぴたりと動きが止まった。
何の日って、今日は…。
「…おい、銀時?」
「殺す」
「なっ、」
「…ご飯にマヨネーズかけようが、部屋を煙草臭くしようが、今までは全部我慢してやってたけど」
今回は無理。
「ちょ、ちょっと待て、話しくらい…」
「話す気なんてこれっぽっちもねーよ、てめぇなんかもう知るかァァァァ」
「だから悪かったって…」
「問答無用だバカヤロォォォォ」
胸倉掴んで玄関までふっ飛ばす。
盛大な破壊音を聞きながら、長く深いため息を吐いた。
こんな奴こっちから願い下げだ。
「死んじまえ」
嘘で良かったなんて、少しでもほっとした自分はいなかったことにして。
とりあえず、来年の今日は三倍返しと心に強く誓った。
終