戯れ言
□それでも俺は
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「じゃあな」
「…おう」
さっきまで傍にいた筈の黒い背中が遠い。
甘ったるい指先が、声が、瞬きする度に消えていきそうで目をぎゅっと強く瞑った。
これで終わりだと思うとどうしてこんなに手放したくなくなるんだろう。
さっきまでは俺のものだったのに、
硬質で艶のある黒髪も長くてごついのに細い指も煙草吸ってる時に目を細めるその表情も俺の名前を呼ぶその優しい声も、すべて、すべて、
「ひじ、かた…」
吐息交じりの掠れた声で名を呼べば、戸にかけていた手が止まった。
「…何だ」
呼ぶつもりなんかなかったのに、いざ口にしたら胸の奥までツンとして酷く苦しい。
未練がましくもう一度名前を呼ぼうと顔を上げたが、背を向けたままの土方をみて口噤んだ。
「用がないならもう行くぞ」
「……………」
ぱたんと閉まる音が聞こえて、あぁ、もう本当に終わったんだ、なんて。
最初から確かな物なんてなかった。
俺とあいつの間には恋とか愛とか、言葉に表せる物なんか欠片もなくて、始まってもいないものが終わっただけ。
最後にもう一度口の中で名前を呟くと、俺の名を呼ぶあいつの声が聞こえた気がした。
ねぇ、土方。
もし、出会った頃に戻れるとしても俺はきっと同じ道を選ぶと思うよ。
例えお前を失う道だとわかっていても。
「馬鹿だな、俺は」
目頭が熱くなって指で押さえた。
終
(遊びだった土方にそれでもいいと好きになった銀時)(傷付くとわかっていても、)