戯れ言

□本当に怖いのはお前の隣を失うこと
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変わらない距離、伝えられない想い、それがただ苦しかった。
お前の隣、お前の特別、それがどうしても欲しかった。





授業中はぐーすか寝てるくせに、昼休みのチャイムと同時に起きる銀時を教科書で叩く。


「なんでお前はそうなんだよ」

「何が?」

「たまにはちゃんと授業受けろ」

「えー、だって頭使うと腹減るじゃん」

「…っお前な、」

こいつは何しに学校へ来てるんだ。
遅刻してきて、授業中は爆睡。
昼に飯食ってまた寝て、あっという間に放課後。
職員室に呼び出される事もしょっちゅうだし。
まぁ、それがこいつらしいと言えばそうなんだけど。

「つか、土方。屋上行くぞ」

机の横にぶら下げてあったコンビニの袋を持って立ち上がる銀時に続いて仕方なさそうについて行く。
内心は嬉しくてしょうがないが悟られてはいけない。

「お前今日も菓子パンかよ」

白いビニール袋から透けるパンをみて思わずため息が出た。
毎日毎日よくもまあ飽きないものだと感心してしまう。

「ばっか、今日はクリームとチョコといちごジャムだぞ、すっげぇ豪華」

菓子パンの一体どこらへんが豪華なのか教えて欲しい。
階段を上りながら自分の右手にある弁当箱を銀時に持たせた。


「お前はこっち」

代わりに菓子パンの入った袋を取り上げるとぽかんとした顔で立ち止まった。

「…え、食っていいの?」

「ああ、仕方ねぇからやる。けど、残すなよ」

ぐしゃぐしゃっと銀色の髪を撫でれば嬉しそうに目を細めて笑う。
俺はこいつのこういう顔が好きだ。
人には余り見せない無防備な表情を見るたび、特別になれた気がして頬が弛む。

「お礼にちゅうしてやろうか」

「…いらねーよ」

頼むから、そんな事言うな。
期待させるような事言わないでくれよ。
ただの友達であって、そういう関係じゃないのに。
俺が勝手に想いを寄せてるだけで、こいつにとって俺はただの友達にすぎない。

「冗談に決まってんだろ、俺だってするなら可愛い女の子がいいしなー」

弁当箱を抱えながら屋上の扉を開けて、いつもの場所へ走り出す銀時の後ろ姿を見つめながら思った。
この気持ちを伝えたら、もう二度とこんな風に一緒にいる事は叶わない。
手に入れた、今の場所さえ無くなってしまう。

だからせめて、

「土方、何ぼけっとしてんの」

好きだ、なんて言わないからお前の一番近くにいさせてくれよ。

「彼女できたら紹介しろよ」

「やだね、お前無駄に格好いいから」


(いつかこの想いよ、消えてなくなれ)

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