睦言

□儚く散る乱華
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鴉が空に映しだされ
夜が泣いた
陽が消えた朝に向かって
誰かが叫んだ

どうしてこんなにも醜いのだと
どうしてこんなにも哀れなのかと

自分だけではないと分かっていても
非情に動く人の心を止められずに今日もまた地に伏せる


























遠くで何かが鳴いた気がした。
それは人の声のような獣の声のような酷くしゃがれた低い鳴き声。
苦しいのかさてまた悲しいのか、地を削るように震わせるその声は荒々しく泣き叫ぶよう。

暫く歩を進めると一羽の鴉が裂けた体で小さく震えているのが分かった。
車に引かれたのだろうそれに、一歩今一歩と踏み出せば一際大きな声で叫ぶ塊。
何をそんなにも怖がっているというのか。
どうせもうすぐ尽きる命だというのに。


「死ぬのはお前だけじゃないんだ」


みんな死ぬのだ。
自分だけが辛いと思うな小さな命よ。


「ここで死ぬのがお前の運命だったんだよ」


最後の抵抗と言わんばかりに大きく羽を広げて宙を切った。
ぱたりと落ちた翼はもう動く事はない。

たかが鴉だ。
何処にでも存在する黒い塊。
そんなものに特別な感情なんて持ち合わせる筈がないというのに。
なのに、どうして、この場から動けないでいるのか。
この離れがたい気持ちは一体何なのか。

嘗ての仲間の死を目の前にした時もそういえばこんな気持ちだった気がする。
あの時はヅラに殴られたっけ。
いつまでそうしているつもりだと。
お前が側にいても死んだ者は生き返らないと。

散々説教をされてため息を吐かれた。





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