マフィアごっこ
□少しだけ大人びた君の笑顔
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毎年2月14日といえば
ハルや京子ちゃんからの手作りチョコレート。
右腕からは高級チョコレート。
親友からはチョコやクッキー。
雲雀さんは可愛らしい動物のチョコレート。
ディーノさんは一輪のバラと俺が好きな店のケーキ。
お兄さんやランボはビー玉みたいにきらきらした飴が入っている瓶やぬいぐるみ。
昔だったらバレンタインデーに男からチョコとか貰ってもちっとも嬉しくなかったけど、最近はちょっと変わってきた。
隼人なんかは特にそうだけど、俺が気に入りそうな物を何時間もかけて選んでくれてる。
その、俺のために使ってくれてる時間が凄く嬉しい。
あれでもないこれでもないって頭を悩ませたり、考えてくれる時間とか本当に嬉しくて…。
「十代目、もしかしてお口に合いませんでした?」
「あ、ごめん。そうじゃないんだ…。ただ、相変わらず俺の好み分かってるなぁって、ちょっと嬉しかったんだ」
ホワイトチョコとビターチョコが何層にも重なり合ったキューブ型の小さなチョコは、見た目もオシャレで味も完璧。
ホワイトチョコの独特な甘さ残したまま、ビターチョコの風味もちゃんとあって、たくさん食べても飽きがこない味だと思う。
本当に美味しい、ともう一粒口に含めば、彼は照れくさそうに笑った。
「十代目の好みを把握しておくのは右腕として当然ですから」
胸のあたりがむず痒くなるような台詞をさらっという所も相変わらず変わらない。
昔から忠誠心が強く、一生懸命で、俺が困った時にはすぐに駆けつけてくれる。
俺の自慢の右腕。
「…いつもありがとね、隼人」
「な、とんでもありません!!十代目のお役に立つ事が俺の幸せなんですから!!」
「…うん。ありがとう」
にっこりと微笑めば、彼の顔が赤く染まる。
慌てて背中を向けたかと思えば珈琲お持ちします、と走り去っていった。
「………あー」
本当にああいうところは昔から変わらないなぁ。
緩む口元を軽く押さえながら、何気なく机に積まれた包みの一つを手にとった。
黒い箱に黄色いリボンが目立つそれは、毎年必ず贈られている物だ。
今年は何だろうとリボンをほどき箱を開けると、中にはオレンジサファイアがはめ込まれたシルバーリングのネックレスが入っていた。
「センスがいいのは当たり前だけど、ネックレスなんて珍しいな」
去年までは腕時計やネクタイ、スーツにタイピンといった実用的な身の回りの物だったのに。
しかも、アクセサリー類は愛人にしか贈らない筈だ。
となると、渡す相手間違えた…?
いやでもな…。
暫く考えたがなんだか面倒になり、最終的にはまぁいいか、という考えに落ち着いた。
それに、例え間違えだったとしても、これはリボーンのミスだ。
俺は知らないもんね。
首の後ろに手を回してネックレスをつけていると、扉が控えめにノックされた。
「どーぞ」
「失礼します、十代目。珈琲をお持ちしました」
「あぁ、ありがとう。いい香りだね」
受け取ったカップに口をつける。
苦手だった珈琲も今では毎日飲むようになった。
これもあいつの影響だけれど。
「…あれ、十代目。そのネックレス…」
「あ、これ?うん、リボーンから」
黄色いリボンをヒラヒラと見せる。
空になった箱と一緒に引き出しにしまっておこうと、
俺が引き出しに視線を向けたその一瞬。
彼は傷付いたような、怒ったような、なんとも言えない複雑な表情をしていた。
俺は小さく息を吐き、引き出しを閉めた。
「とっても…お似合いです、十代目」
顔を上げれば、目の前の彼はいつものように優しく微笑んでいる。
「…ありがと」
彼の気持ちはもうとっくに知っている。
だからこそ、
俺は今日も気付かないフリをして
彼に優しく微笑み返す。
(変わったとしたらそれはきっと…)
『少しだけ、大人びた君の笑顔』
end