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□日向恵の妄想
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『ついに来たか、愚かな人間ども』
魔王タロウは、尊大な態度で玉座から立ち上がった。
『今日こそ、姫を返してもらうぞ!』
そんな魔王に剣先を向けて、ミヤビが言う。
『ふん、もはやこの娘は私のしもべだ。やってしまえ、キジマ!』
タロウが声高に言うと、傍らに控えていた少女が主を庇うように、一行の前に進み出た。
『承知しました…』
『お待ちくださいアイリ姫様!』
虚ろな瞳で対峙した少女の姿に、ユウトが叫ぶ。
『これを。こちらにおわすお方をどなたとお思いですかっ!』
そして彼は、恭しくハスの背中を示した。
そこには、なんとも不細工な猫のぬいぐるみが“乗って”いた。
そのぬいぐるみは、犬の背で立ち上がると威厳に満ちた声で少女を一喝した。
『目を覚ませアイリ!』
『ぅ…、ぁ、ぁあ…、…お父、様…?』
その途端、少女は頭を抱えるようにしてふらりとその場にへたり込んだ。
「…―とか、いいと思うのだ!」
「ぇえっ、そこ山田くんなの?!」
満面の笑顔で、ぶっ飛んだストーリーをとうとうと展開する恵に、雅は思わず声を上げた。
突っ込み所がありすぎて、流石の彼女も対処しきれない。
しかも、いろいろなものが混ざっている気がする。
恵の妄想力の逞しさに、雅は我知らず感心した。
「うんうん、なんか面白そうなのだ」
尚も楽しそうに目を輝かせて喋り続ける恵を眺めて、雅はクスリと笑いながらティーカップを口に運んだ。そうして、今日も放課後の楽しい一時がゆっくりと過ぎていく。
fin.