作品置き場
□徒然告白
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『さくら舞い散る中に忘れた記憶と君の声が戻ってくる。 吹き止まない春の風 あの頃のままで 君が風に舞う髪掻き分けた時の 淡い香り戻ってくる 二人約束した あの頃のままで』
大勢の人の群れの中に
異質な僕が混じっていても気付かない
この世界で
ただ歩いている
そこかしこから
あの人の声が聞こえる
この季節になると僕は町を、山を、空をさまよう
あの人を捜して
暖かい陽射しのなか、薄いピンク色の花が咲きみだれ、雪のように散る
全くあの人と一緒にみた景色だ
『…綺麗でしょう…ほら、雪みたいに散って。満開の時もいいけど、いつみても綺麗でまるで人みたいでしょう。あんたたちにはけして真似できないわよ』
桜と呼ばれる花は確かにその通りだった
僕達には真似できない。
でも、むしろ…『リナさんのようですね』
『あたし?そう?悪い気はしないわね』
そう言ってニヤリッと笑って僕の頬に口付けた
『ちょ…リナさん?』
『覚えておいてね、この花はあたしよ』
町の丘の上の山桜を指差し、こう宣言された。
『あたしたち人間はいずれ死ぬわ。この花の様に。でも子供を生んで育てて命を繋いでいく。だから…確かに誰も覚えてないかもしれないけれど、あの花が咲く限り…貴方の事忘れないわ』
そういっていつまでも二人で眺めた山桜
今は数十年たち…僕は一人で見上げる事となる
ここにくる度に思いだす。
リナさんとした約束を。
『貴方の事を忘れないわ』
山桜の下に誰かが…たっている
長い髪。まっすぐとみつめる…どんぐりまなこ。
まさか…
「やっと逢えたわね」
桜が雪のように舞う
あたたかな陽射しのなか、
その少女は豪快に笑った