BL短編の小部屋A

□三邦&四季 《シンクロ》
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体育前の教室。

女子が更衣室に全員移動したのを確認し、クラス中の男子が一斉に着替え始めた。


「やっべ〜俺、今日体操着忘れた!!」
「マジで〜
おまえ沢田に目ぇ付けられてんもん校庭10周じゃん」


……うるせーな。

学ランを脱ぎかけた俺の斜め後ろで、教室中に響き渡る程の大声がした。

体操着を忘れたと騒いでるのは、弱い者には強く、
強い者には弱い、
小心者のくせして目立ちたがり屋の柿田。


俺の苦手なクラスメートだ。

校庭10周?
ざまーみろ。
なんなら一生走ってれば?
頑張れコール送ってやるよ。

心の中で舌を出してやる。

去年四季が同じクラスだった柿田は、入学当初から意気がっていた。

同級生にはやたら横柄な態度のくせに、上級生には弱くて、柿田のメッキはすぐに剥がれた。


不良じゃなく、不良ぶってるだけ。


そんな柿田がみんなから好かれる筈もない。


「隣のクラスから借りて来いよ」


佐々木が言った。

おまえなんかに体操着貸してくれる奴なんかいねーよ。


俺は内心ウキウキ気分で着替えを続ける。


なんだかんだ理由を付けて断る奴らを前に、本気で焦る柿田の姿が目に浮かぶ。


体育教師の沢田先生は時代に逆行した、熱血教師だ。
拳骨の1つや2つは当たり前。


へへへ。
いー気味。


「2組って誰いた?」
「んーっと…手塚は?」


あいつも影でおまえの悪口言ってるよ。


「あとバスケ部の田中とかぁ」


柿田がボールを勝手に使って返さないせいで、バスケ部での柿田の評判は最低最悪。


体操着なんか貸してくれる筈がない。


「あ、去年一緒だった田所は?」


四季?


制服を脱ぐ手を止め柿田を振り返るとバチっと目があった。


人の好き嫌いがない四季のことだ。

たとえみんなが嫌う柿田にですら、頼まれたら断ることはしないだろう。

あいつお人好しだから。


「おぅ。
俺ちょっと2組まで行って来るわ」


佐々木に言い残し、慌てて教室を出て行った柿田の背中を目の端で捉え、俺はなんとも言いようのない嫌な思いが込み上げてきた。


なんでよりによって四季、なんだよ……


それは誰にも見付からないよう隠していたお気に入りのオモチャを発見されてしまったような、妙な気分だった。
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