小さな童話

□ヒンメルフラウ
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むかしむかし、ある村にヒンメルフラウという女の子が住んでいました。

ヒンメルフラウは気立ての良い優しい子でしたので、村の人からもたいそう好かれていました。

ある晴れた日、ヒンメルフラウは村の畔の森にある、池の水を汲みに行きました。

池に行く途中、木に寄り掛かっている鹿を見つけました。

よく見ると、怪我をしているみたいです。

ヒンメルフラウは優しい子でしたので、いつも持っている薬草で手当てをしてあげました。

鹿はすっかり元気になり、ヒンメルフラウにお礼がしたいと言いました。

ですが、ヒンメルフラウは「その気持ちだけで嬉しいわ」と、言って鹿と別れ、池に向かいました。










ヒンメルフラウは森の中にある池に辿り着きました。

そして、水を汲もうとしたとたん











辺りが真っ暗になり、森の雰囲気が変わりました







ヒンメルフラウは怖くなり、震えていると





『大丈夫、怖くないよ』




よく見ると、少し前に助けた鹿がいたのです。





「鹿さん、これは一体…どういうことなの?」


ヒンメルフラウが問うと、鹿は答えました。







「ここはね、僕らの想いが集まる場所なんだ。

今、その想いの力がたくさん溜まっているから

溢れ出しちゃいそうなんだ。だから‥君に使って欲しいと思ったんだ。」


「どうして私なの?他の人でもいいんじゃ…。」



「他の人はだめなんだ。
その人達は僕らの“想い”の力を悪用しようと
したから」




「そうなの…」





「それに…………」







「君は僕を、見返りも求めないで助けてくれた」






「他の人は見返りを求めてばかりだった…。

だから、君に

この“想い”の力を

使って欲しいんだ。」




「でも…使うか使わないかは、

君に決めてもらいたい」










「さぁ……どうする?」














ヒンメルフラウは

少し考え込んでから

こう答えました。










「使うわ」











「どうしても、叶えて貰いたいお願いが‥


ひとつだけあるの」








「どんな願い…?」





「私を………」





「消して………」





「うん、いいよ」









「ありがとう…!」









「でも、きみは…」









「なぜ‥消えたいの?」









「それはね…」



















「水とひとつに


……なりたいの」









「ひとつになるの?」









「そう…




できるよね?」









「鹿さん」









「君がそう望むなら…」





























そうして




ヒンメルフラウは




鹿たちの想いを




使って




溶けるように




同化しました









村では




ヒンメルフラウが




最初から




存在しなかった




かのように………




村人たちは




平穏に




暮らしています‥










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