小説

□醒めない夢を
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長きにわたる戦争が終わり、多くを犠牲にしながらも戦ったシンは、ザフト軍を退役する道を選んだ

同僚のルナマリアやメイリン、ヨウランやヴィーノは引き止めてくれたが、シンの決意は変わらなかった

「これからどうするの?」

眉を寄せ心配するルナマリアに、シンは血色のよい笑みを浮かべる

「ステラと一緒にひっそり暮らすさ」

ステラとの話し合い結果、ドイツの小さな村へしばらく身を隠すことにした

強化人間であるステラの生命に、大いに関わる医療機関の情報を調べたら、最新の医療施設も整っている

「それにしても…シンてほんと、ステラのことが好きなのね!」
「こら、メイリン!」

調子にのったメイリンをルナマリアが制するが、シンは頷(うなず)く

「ああ、俺はステラが好きだ」

何とも言えぬ表情で言うもんだから、ルナマリアはきょとんとし、自然と頬の筋肉を緩(ゆる)めてしまう

「なら、いいわ」

シンの心情を察したのか、ルナマリアはそれ以上何も言わなかった

「それよりルナ、ひとつだけ約束してほしいことがあるんだ」
「何よ?薮(やぶ)から棒に」
「俺とステラの居場所は、あの人達には伏せといてほしいんだ」

あの人達とはザフトに在籍中に、ぶつかり合ったアスランや散々糾弾したカガリのことを指す

「本当にそれでいいの?シン」
「頼む…!ルナにしか頼めないことなんだ」
「でも、せめてアスランだけには連絡先を…」
「いや、ダメだ。バレたらアイツ等に利用されそうになる」

そしてアイツ等とは、ルナマリアもあまりいい印象を持っていないキラとラクスのことを指す

オーブにある慰霊碑で初めてキラと出会った時、シンは力に任せ、キラの頬を一発殴った

「俺はアンタをまだ許す気にはなれない」

と、地面から起き上がるキラを睨(ね)め据え、はっきりと告げた

キラは何も言わず、服についた砂を払い立ち上がる

――気味が悪い

ルナマリアから見たキラの第一印象はそうであった

時が凍りついたように微動すら出来ない

キラの瞳は薄暗い膜で覆われたような寒さがあり、醒め切った瞳の奥を覗くと、濾過(ろか)された純粋な恐怖すら感じる

ルナマリア自身も身体の底から言いようのない悪寒が湧いた

これではまるで生きた幽霊のようではないか――

全てを悟ったかのような諦観主義に、シンが怒り狂うのも理解出来る

きっとあの人は、ただ生を傍受(ぼうじゅ)し

過ぎ行(ゆ)く時間に、移り変わる世界に

身を委(ゆだ)ねているのだろう

シンとルナマリアは、言葉にも表情にも表さなかったが、目の前にいる“キラ”の抜け殻を、惜し気もなく憐(あわ)れんだ

その出来事が影響したのか、ルナマリアはシンの意図を汲み取った

「分かった。アスランにはそう伝えとくわ」
「ありがとう、ルナ」

シンは安堵の溜め息を吐く




出発の日、休暇をとったルナマリアとメイリンが空港のロビーまで見送りに来てくれ、シンはこの時、姉的存在の彼女の気遣いに心から感謝した

早朝一番のドイツ行きの便に乗るので、外は薄暗く、辺りを見回しても人気(ひとけ)は少ない

「久しぶり、ステラ。体の具合はどう?」
「万全とは言えないけど…だいぶ良くなってきたわ」

元々は敵対しあっていた二人だが、いつの間にかステラとルナマリアの間には、固い友情が成立していた

「一先(ひとま)ず安心ね」
「おかげさまで。ルナマリアがいてくれたから助かったわ」
「またまたぁー!言っておくけど、おだてても何も出ないわよ」
「本当のことを言っただけ。色々お世話になりっぱなしだったし……ありがとう、ルナマリア」
「ううん、対したことしてないわ」

昔からの旧友だったかのように、ステラとルナマリアは仲睦まじく笑いあう

「お姉ちゃん!ステラ!」
「メイリン」

傍目(はため)からみれば、息をぴったり合わせたかに見える二人の声が静かに重なる

「私も会話に混ぜてよっ!」

二人の間に蔑(ないがし)ろにされていたメイリンが割り込む

「ごめんごめん、危うくメイリンの存在忘れるとこだったわ」
「ひどーい!」
「相変わらず仲いいのね。ルナマリアとメイリンって」

優しいステラの微笑みを見つめ、メイリンは改めて彼女を引き止めたい衝動に駆られる

「ねぇ…ステラ、ほんとに行っちゃうの?」
「ごめんね。メイリン」
「寂しくなるなぁ…」
「でも、これは私が自ら選んだ道なの。ここで行かないと、後々(のちのち)きっとまた後悔することになるから」

先の大戦で生体CPUとして、デストロイに乗ったステラは、ベルリン市街を焼き払い何十万、何百万という市民を虐殺へと追い込み取り返しのつかない罪を犯してしまった

「…ステラ」
「それに、今生の別れってわけじゃない。会おうとすればいつでも会えるわ」

例え、犠牲になった人々を自(おの)ずから弔(とむら)おうとも、世界はそんなステラの戯事(ざれごと)を許しはしない

「うぅ…ステラ…!」
「メイリン、いつまでもメソメソしない!」
「わ、分かってるよ!でもぉー……」
「私達が笑って見送ってあげないと、ステラが安心してドイツへ行けなくなるわ」

友好を深めあう三人の姿に、遠くから一歩退(ひ)いて見守るシンの顔も、思わず綻(ほころ)ぶ

「シンも…元気でね」
「あんまりステラを困らせちゃダメだよ」
「分かってるって」

自分がまだアカデミーにいた時を思い出す

同期のルナマリアと、今は亡きレイと一緒にいた在りし日の微笑みが、シンの脳裏に鮮明に映し出される

「そろそろ搭乗の時間ね」
「ほら、シンも急がないと!」

背中を押してくれたルナマリアとメイリンに促(うなが)され、シンは搭乗口で手招(まね)きしているステラの元へと向かう

「じゃあね。シン、ステラ」
「体に気をつけて。何かあったら連絡しなさいよ!」「ほんと…ありがと!メイリン、ルナ」
「私からも礼を言うわ。ルナマリアもメイリンも元気でね」

軽い抱擁を交わした後、白い鳥の形を象(かたど)ったシャトルへと乗り込み、シンとステラはドイツへ渡った




俺とステラは戦争を終結に導いたと賛美されている、キラ・ヤマトと現プラント議長、ラクス・クラインから逃げるように、ドイツの小さな村へと身を潜(ひそ)めた

「シン」

小窓から柔らかな陽光が降り注ぐ中、白いダブルベッドでシンは気持ち良さそうに眠っていた

「起きて、シン」

寝ているシンを起こさぬ様、早起きして、既に朝食を作り終えたステラは、まだ起きてくる気配のないシンに優しく声をかける

「んー……」

意識が覚醒してないシンは、まだあたたかな掛け布団の温(ぬく)もりに包まれていたいらしい

「困ったわね…朝食冷めちゃうわ」

なるべくなら出来立ての朝食を、愛するシンに食べさせたいステラ

「こら、シーンー!もう朝よー!」

シンを起こす方法をあれこれ考えてると、あるひとつの名案がステラの頭の中に閃(ひらめ)いた

「これで起きなきゃ仕方ない。目覚ましで無理矢理起こすしかないわね」

果たしてステラが思いついた方法とは?

「ん……」

なんと、ステラは寝ているシンに覆い被さりキスをし始めた

「シ…ン……」

しかも軽いフレンチキスではなく、濃厚なディープキスで寝てる間にシンを攻めようとする

「ん……んんっ!」

寝室にピチャピチャと卑猥な音を響かせ、ねっとりと舌を絡め歯列をなぞる

「んー!ん…んむぅ!」

突如訪れたあまりの息苦しさに、シンの意識は完全に覚醒した

「ス、ススス…テラ!?」

まだ寝ぼけているが、シンが目覚めたことを確認すると、当事者のステラはやっと唇を離した

「シンが起きないから悪いのよ」

たちまちステラの頬が赤みを増す

「ご、ごめん!」
「いいわよ、気にしてないから」

ここへ来てからというもの、以前はこれと言った変化もなく無表情だったステラが、甘く蕩(とろ)けるような微笑みを見せてくれることが多くなった

「それより、もう朝食出来てるから冷めないうちに食べましょ」

ステラは窓を開けて、澄み渡る朝の清々しい空気を取り入れダイニングに向かおうとする

刹那、

強い力に左腕が引っ張られ、そのせいでバランスを崩したステラは、シンの腕の中へと引き寄せられる

「ちょっと!シン?」
「俺…朝食より先にステラが食べたい」

さっきステラがしてきたキスのせいで、シンの性欲が湧き上がり猛(たけ)ってきた

「…朝からやるつもり?」
「朝から俺を誘ってきたのはステラの方じゃないか」

魅惑的な曲線を描くステラの腰の辺りを見つめながらも、甘く芳醇(ほうじゅん)な色香を漂わせる彼女を求め、ゆっくりと押し倒す

「でも、朝食が…」
「後で温め直せばいいよ」

強い情欲を抱えたシンに、ステラは抵抗するのを諦めたらしく、上目遣いでシンを見上げ、彼の肩に手を回した

たゆたう微睡(まどろ)みに身を委ねるシンとステラ

化繊のスカーフよりも上等な絹布の肌触りを持つ風は、二人に優しい夢を見せてくれた

ステラはどこまでも柔らかかった



醒めない夢を



(蜂蜜の中に溶ければいいのに)






先に言っておきます

運命本編のキララクが好きな方は見ないで下さい
























戦後のシンステを書いたのはこれが初めてです

大人ステラ設定のシンステなので、戦争の裏側や政治の汚い部分(ニュアンス含め)もある程度交えながら書けました

逆に本編ステラ設定でのシンステなら、この話は書けなかったでしょう

大人ステラは運命放送開始前に、私が予想してたステラの性格です

クールで普段はほぼ無表情、しっかり者のお姉さんでシビアな考え方をする子だと思ってました

戦後のネタがどうしても思い浮かばない理由がやっと分かった…気がします

アスランとカガリはともかく、キララクがいるから

あの続編を想像するってのは私にとって酷過ぎる

だから拒否反応が出るんです

スペエディを見たんですがキラはザフトの白服で、ラクスはプラントの現議長でしょう

いいですか、よく考えてみて下さい

彼等はテロリストだったんですよ…!

怒りを通り越し、呆れて何も言えないし言いたくもないのが現状です

キラを洗脳し、プラント市民まで制圧し腹黒ラクス様がやりたい放題じゃないですか

一体プラントはどこへ向かって行くんだ?

本編延長上の長編は間違っても書けない

戦後設定で、運命本編のキララクがそばにいて成立するシンステは嫌だ(二次創作なら話は別ですが)

そんなことをするくらいだったら、天国で幸せになってくれた方がよっぽどマシ

この話ではステラが生存してますがね

五十話で天使になったステラがシンを迎えに来て、シンはルナに看取られながら死亡

と、言う捻(ひね)くれた考えの持ち主です



お題拝借、闇に溶けた黒猫・液体窒素と赤い花様

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