OUT NOVEL
□生きる意味
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ーこの世は、対極する二つのものがあるからこそ成り立っている…
喜びがあるから悲しみがある。
嫌う人がいるから好きな人がいる。
闇があるからこそ、光りが必要になる。
頭が良い人がいるのは、悪い人がいるからこそ成り立ち、敗者が居なければ、勝者はない。
二極に別れ相反するものがあるのは道理だ。
だから、見える世界があれば、見えない世界があっても可笑しくはない…
事実、見えない世界はある。
だが、人間が言うあの世ははっきり言えば間違っていた。
地獄はないし、そこには舌を切る閻魔様とやらも居ない。
天国にも神様等居ない。
あるのは、二つの世界。
死者の都と呼ばれるディーベと、聖地と呼ばれるリリス。
そこでは、人間同様に地位があり、仕事がある。
神様や閻魔様に酷似した統治者は居ても、彼らにも死は有る。
家族も居るし、金で売買もする。
彼らの仕事は、人間の死に関する事。
どういった経緯でそうなったかは不明であるが、人間が何故生まれて来たのかを問うのと同じで、彼らもまたそう生まれ、そう生きて来たのだ。
そういうあの世の世界にも、逸れ者は居る。
その者の名は、シャオ・ルナティーク。
伝説となった吸血鬼と人間の間に生まれたジプシーであり、その能力はずば抜けている。
あの世の世界でも一目置かれる立場ながら、決して誰かの下には着こうとしない。
掃除屋と名乗り、自分が楽しめる依頼しか遣らない、野良猫のような奴である。
―太陽が輝き、夏の訪れを知らせるように蝉が鳴くある晴れた昼下がり。
木陰に逃れ、憎らしい程に照り付ける太陽を見上げ、シャオは舌打ちをした。
漆黒の髪が、風を受けて靡き、光りの影響でか、金色にも藍色にも見える。
意志の強そうな大きな瞳は、今は暑さと怠さで、半分閉じられていた。
身長は高くなうにしろ、整った顔立ちをしている。
見た目は、まだ高校生ぐらいの顔立ちながら、実際は百五十年生きている。
吸血鬼の血を受け継いだお陰で、人間の十分の一の早さで成長するために無駄に長生きしてしまうのだ。
懐から煙草を取り出し、火を点けるとうざったい気持ちをそのまま煙りと一緒に吐き出した。
警官に見つかれば、即座に逮捕されてしまうだろう。
本来、楽しめる依頼しか受ける事がないシャオが、今日はそれが出来なかった。
「たっく、俺を嵌めやがって…」
遡る事二時間前―
―「はい、シャオ君」
「はっ?何いきなり」
ディーベの住宅街、シャオが自宅に帰ろうとしていた時の事。
いきなり後ろから声を掛けられ、後ろを振り返れば、大きな紙袋を渡された。
両手で反射的に受け取り、紙袋越しにその人物を見上げれば、左目を覆う黒い眼帯が先に目に入った。
死神のディルである。
「あげる」
一言そう言い、ディルは口端を上げて笑った。
ディルがその笑い方をする時は、何か企みがある時だ。
長年の付き合いでそれを知っているシャオは、眉を潜めた。
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