OUT NOVEL

□蔦木歩の災難
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特別編…蔦木歩の災難…












―「…嫌だ」

「そこを何とか!お願い!」

「蔦木が一番似合いそうなの!」

「嫌に決まってるだろ。
俺は、こんなの絶対着ないからな」

秋めいてきたある日の晴れた昼下がり、蔦木歩は人生最大の窮地に陥っていた。

歩をクラスメート達が囲み、そのうちの一人が持っている服を着てほしいと迫っているのだ。

ただの服じゃない。

ひらひらのフリルが沢山ついているスカート。

所謂メイド服。

何故メイドか…それは、来週に控えた学園祭で、喫茶店を開く事になった歩のクラスは、宣伝用に何かしようと考えていた。

そこで、喫茶店ならメイドだと訳の分からない解釈でそうなったのだ。

なら、女がやればいいとなるのだが、歩の容姿がそこらの女よりも綺麗だから、声を掛けられるのも仕方がない。

「お願い!」

「私、歩君のサイズに合わせて一生懸命作ったの!
これで歩君が着ないって言ったら、私のこの努力は何になるの!?」

知るかっ。と心の中で叫び、歩は泣きたくなるのを堪えた。

わぁっと泣き出した女子に、周りの奴らが慰める。

「蔦木!女の子が泣いて頼んでるのよ!?」

そう言われても、嫌なものは嫌なのだ。

だが、歩は上に馬鹿がつくお人よし。

女子に涙ぐまれながら懇願されるのを、断る事は出来なかった。

大きな溜息をつき、諦めたように両手を上げた。

「あー…もう、分かった。
分かったから、頼むから泣くな」

そう歩が降参した瞬間、さっきまで泣いていた女子が歓声を上げた。

やられたと思ったが、もう引き返せない。

小さく溜息をついて、歩は天井を仰ぎ見た。















―太陽が沈みかけ、夕日が照らす道を歩は、クラスメートの男友達(歩は、悪友というが…)と二人で歩いていた。

この悪友は、何処から歩の事を聞き付けたのか、前から喧嘩の代理を頼み込んで来る。

「おいおい、まーだ怒ってんのか!?」

顔を覗き込み、笑みを見せる悪友に歩は睨み上げた。

「どうせ、あんただろ。
あいつらに変な事を吹き込んだのは」

「…さぁー、何の事だか」

「目が泳いでるけど」

「はっははは、いやー、だってよ!
あの女子達によ、お前にうんと言わせるにはどうしたら良いかって聞かれてよ!あいつは、何だかんだ言ってお人よしだから、涙の一つ二つ見せて頼み込めば折れるっつって…ぶっ!」

「今度、あんたから頼み込まれても絶っ対協力しないからな」

悪友の後頭部をひっぱたき、歩は痛がってうずくまる悪友をそのままにさっさと進む。

「ちょっ!おい!歩!」

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