STRAY CAT

□第五部・相方
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―出会いは突然だった。

「お前ぇ、何泣いてんだぁ?」

依頼を受け、掃除した後、人間界の山道を抜ける途中だった。

泣いてはいなかった。

涙など、自分は流せないものだと思っていたからだ。

黒いボロボロのコートに、黒いボロボロの帽子。

無精髭が生えてるが、まだ顔付きは二十代後半ぐらいだろう。

頼りない月明かりに照らされた顔を良く見れば、結構男前だ。

「何泣いてるんだぁ?」

「泣いてない」

「いーや、ここが泣いてるだぁ」

そう言い、俺の心臓を指差すそいつを睨み上げる。

変な奴だと、その場を後にしようと立ち上がる俺に、そいつはけらけらと笑った。

その笑いが感に障る。

何が楽しいと言うのだろう。

「泣きてぇのに泣けないかぁ」

「泣きたいなんて思ってない」

「嘘だぁ」

「…何なんだよ、お前、消すぞ」

舌打ちし、殺気を放つ俺をそいつはまたけらけらと笑う。

「俺ぁ、お前には消されねぇよぉ」

「子供の姿だか「らって、甘く見てっと痛い目に合うぞってかぁ」」

俺が言う前に、そいつは俺が考えていた言葉を言う。

何故…

「何故分かったのかって、思ったなぁ」

「…お前…」

「人間には、覚(サトリ)っと呼ばれてるだぁよ」

「サトリ?」

眉を潜め、剣に手を置こうとする俺より先に、そいつは消えた。

「んだぁ、心を読み取る事が出来る妖怪だぁな」

「…っ」

きらり、と首筋に小刀を突き付けられ、俺は身動きが取れなかった。

「人間の間じゃあよ、隙をついて喰っちまうとかゆう噂があんだぁ…
おんめぇ、旨そうだなぁ」

べろり、と頬を舐められ、俺は死を覚悟した。

こんな変な奴に喰われるのは、嫌だが、足掻いたところで疲れるだけだ。

早々に諦めた俺に、そいつはまたけらけらと笑った。

「馬ぁ鹿。んな簡単に死ぬ覚悟すんなよぉ」

口にしなくても伝わるのだったら、喋るのも面倒だ。

別に、生きる事に執着してない。

弱い者は死に、強い者だけが生きる。

俺がここで死んでも、ただそこまでの奴だという事だけだ。

「詰まらねぇ奴だぁな」

あぁそうかよ。と口には出さずに懐から煙草を取り出し、火を点ける。

白い煙りが闇に吸い込まれるように消えた。

「あんなぁ、口で言えってぇ」

「口に出さなくても分かるんだろーが」

「んだども、折角口があって、声があるんだぁよ?
使わなきゃ、損だと思わねぇかぁ?」

「…使わなくて済むなら、別にいいだろ」

「良ぐねぇ。んな煙り吸うぐれぇなら、喋れ」

ひょいっと手を伸ばし、俺の口に挟んだ煙草を抜き取ると、そいつは睨み上げる俺をお構いなしに、満足そうに笑った。


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