STRAY CAT

□第二部・序章
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―夜の闇を照らす月さえも顔を隠した新月。

シャオは、屋根から屋根を飛び移りある人物を探していた。

アスラから報告を受けた。

タスキが襲われた…

それを聞たシャオは、直ぐにその現場である、人間界へ急いだ。

タスキは、ディーベならずともあの世には名の知れた吸血鬼。

そう簡単にやられるはずがない。

だが、そうは思ってもシャオには何かやな予感があった。

タスキが表だった行動をする時、必ずそれは遥の存在がある。

死神に狙われたあの日からまだ一ヶ月。

シャオは五日間学校生活を堪能し、直ぐに去った。

あれから遥にもタスキにも会ってはいない。

「何処にいんだよ」

周りを見渡すが、闇が霧のようにシャオの視界を遮る。

生暖かい風に、シャオの黒髪が靡く。

ふと、血の臭いが鼻孔に届いた。

かなり濃い。

嫌な予感が的中していない事を祈り、シャオは血の臭いに導かれてビルとビルの間にある小路へと飛び降りた。

そこで見た光景に、シャオは目を疑う。

「何があった…」

「…っ…気、を付け…ろ」

真っ赤な鮮血。

隠れていた月が顔を出し、その血を浮かび上がらせた。

「次は…誰かな」

しゃがれた老人のような声がしたかと思うと、黒い影がシャオの横を過ぎる。

「待て!」

「シャオ!!」

必死のその声に、シャオは追うのを止めた。

力無く座り込んだその人物に、シャオは近寄り、更に奥の光景に表情を凍らせた。

「…は、るか…」

仰向けに倒れ、何も見ていない虚ろな瞳。

血だらけのタスキとは反対に、血の気が全くない。

一目で、命が奪われていると分かる。

「…俺は、守れ…な、かったんだ…」

「誰だ。誰が…」

拳を握り絞め、身体を震わせているシャオの服の裾をタスキが掴む。

「聞け。奴の…最終的な獲物は、お前だ」

「んなのは良い!誰だと聞いてる!」

タスキの前にしゃがみ込み、シャオはタスキの肩を掴んだ。

「…気を、付けろ」

見る間に生気が失くなって行く。

「おい!タスキ!」

必死で呼び掛けるシャオに、タスキは最後の力を振り絞り、笑った。

シャオの腕を掴み、引き寄せると耳元で囁く。

次第に腕を掴む力が弱まり、ずるっと重力に従って垂れた。

瞳を閉じ、事切れたタスキを見つめるシャオの瞳が悲しそうに細められる。

一突き。タスキの心臓にぽっかりと穴が空いて、そこから未だに血が流れている。

それ以外に外傷はない。

遥を見れば、血を吸われた痕跡があった。

吸血鬼に血を全て抜き取られると、その者の魂も吸血鬼に持っていかれてしまう。

最近では、そういった事はせずに、少しづつ多くの人間から血を吸う事が決められていた。

面倒が起こり、後処理が大変だからだ。

そんな中で、こんな事を仕出かす奴。

ただ、気の触れた吸血鬼なら尻尾を掴みやすいのだが…

そうでない可能性の方が、大きい。


―後は…頼んだぞ


「…くそっ」


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