☆ロイアイしょうせつ☆

□マトリカリア
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定時まであと30分と迫った頃。
手を動かしながら、リザは執拗に時計を確認している。
いつもなら定時までしっかり集中している彼女にしては珍しかった。
原因は本日風邪で不在の上官のせいだろう。
それを見かねたハボックが痺れをきらして声を上げた。


「あ〜…ちゅ、中尉??」

「何かしら??」

「ちょっと早いけど、もう上がりましょうか」


ハボックは困ったように笑う。
そこで初めて、リザは自分があからさまな行動をとってしまっていたことに気がつく。
はっ として、バツが悪そうに目をそらした。


「だ、ダメよ。定時までちゃんと働かないと」

「もう大丈夫っスよ。粗方終わりましたし」

「でも…」

「それに、大佐が心配で気になるんスよね??」

「…」


リザは図星をさされて、思わず押し黙る。
が、リザは申し訳なさそうにゆるゆると腰をあげる。


「本当に、いいの??」

「はい」

「…ごめんなさい」

「いいんス。それに中尉が行けば、大佐も喜びますよ。早く行ってあげてください」

「ありがとう」


リザはハボックの善意を甘受し、部下たちに見送られながらいつもより早く司令部を出た。
が、歩き始めたのはロイの家の方向ではない。
リザは再び腕時計を確認すると、空を仰いだ。
つい最近梅雨入りしたばかりの空はどんよりと曇っていて、今にも降りだしそうだった。

(降られないといいんだけど…)

リザはまた少し歩調を早めると、夜の街に飲まれていった。
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