tale

□うたかた花火
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一際大きな花火の音に意識が現在に戻る。
大きな大きな錦冠。
「綺麗だ…」




あの道を1人で歩く砕蜂がいた。




修兵は行方不明になった。
1ヶ月ほど経つだろうか。
任務中に消えた、と言う。
同行した隊士の証言をもとに現場を捜索しても、彼は見つからなかった。

忘れるようにしていた。
修兵を思い出すだけで辛くなる。
霊圧は死んで消えたのか身を隠すため消しているのか定かではないが、感知できない。

砕蜂はふらりとあの林に入って、木の影に1人で座った。
しばらく花火をながめていたら、ハートの花火が上がった。
今度は、逆さまでない、綺麗な形のハートだった。



見た瞬間、走馬灯のように修兵との短くも充実した日々が思い出された。
「……っ、修…兵……ぅっ…」
堪えきれず、嗚咽を漏らす。


どうして出逢ってしまったんだ。
どうして好きになったんだ。
こんな思いをするくらいなら好きにならなきゃ良かった。

今まで堪えていた涙が、悲しみや寂しさや孤独感や不安を乗せて林の土に吸い込まれていった。
1人で、声を殺して泣く砕蜂。
道には、恋仲と思しき男女が結構いて、それが砕蜂の悲しみを引き立てる。



しばらく、泣いていた。

たまった思いを吐き出し、なんだか恥ずかしくなった砕蜂。
「……子供か、私は…」
涙をこらえて、滲む花火を見た。


もう二度と会える事もないかもしれない。
でも、今まで一緒にいられたという事実は変わらない。

今横にはない温もりを心で感じ、砕蜂は林から道へ出て、1人自宅へ向かった。
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