tale

□うたかた花火
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約一年前。
ようやく夏の太陽が沈み、少し涼しい時間帯。
珍しくめかしこんだ砕蜂は鏡の前でくるくる回って自分の浴衣姿をながめていた。なんだか気恥ずかしい。

すると、
「砕蜂隊長ーっ、檜佐木ッスよ!」
いきなり元気の良い声が聞こえ、驚く砕蜂。
準備はばっちりだったので、小さな手提げを持つと、すぐ静かに廊下を走り、玄関へ向かう。
「あれ?隊長?…留守?トイレ?風呂…?」
返答がないので取り込んでいると思っているらしく、ぶつくさ言っている修兵。
なんだかおかしかった。
笑いをこらえつつ、静かに下駄を履く砕蜂。
そして勢い良く玄関の戸を開けた。
「うおうっ!!!」
驚きの余り、よろける修兵。
修兵は見た目の割にビビりだな。
そう思い、小さく笑う砕蜂。
「ふふ、よし、行くか‼」
なんだかこうやって好きな人と歩くのは久々で。自然に笑みがこぼれた。
「びっくりさせないでくださいよー」
愚痴をいいながらも笑顔な修兵。
彼の笑顔が砕蜂を笑顔にする。
ふん、それでも副隊長か、と悪態をつきたくなるが、彼の笑顔を見ていると、ただ笑いたくなってしまう。


今日は夏祭りで、浴衣の男女がちらほらいる。
砕蜂も、修兵も浴衣だ。
下駄の音がやけに大きく聞こえるのは普段履きなれないからだろうか。
「砕蜂隊長、いや…あ、……砕蜂。」
名前で呼ばれ、ドキッとする。
「な、なんだ…修、兵…」
どきまぎしながら応える砕蜂。
恥ずかしくて少し俯いた。
すると、すっと彼の手が伸びて来て、砕蜂の手を優しく握った。そして、
「浴衣、似合ってる。可愛い。」
などと笑顔で言って来た。
「な…っ、莫迦かっ……ま、まぁ、そういうお前こそ…まぁまぁ似合ってる…かもしれない、ぞ……」
完全に真っ赤な顔で、俯きがちに言う砕蜂。
修兵はなんだか嬉しくなって、笑顔でありがとう、と応えた。


そんなこんなで砕蜂が照れて黙ってしまったため、手を繋いだまま2人、静かに歩いた。

祭りの会場は林を隔てた向こうで、林のなかを突っ切ればすぐなのだが、あえてちゃんとした道を歩いている。
カップルっぽいから、という意味不明な修兵の意向だ。


しばらく歩いていると、
不意に、花火が上がった。
2人は思わず立ち止まり、花火をながめた。いくつも続けて花火は上がる。
「綺麗だな。」
修兵はちら、と砕蜂を見ながら言った。砕蜂も花火から目を離さないまま
「ああ…空鶴殿があげておられるの、かな…」
と呟いた。
しばらく立ったまま花火を見ていた。
修兵が砕蜂から目を逸らし、花火を見始めたのを感じた砕蜂は、花火を見ているふりをして、修兵の顔を盗み見ては、微笑んでいた。

花火は15分程で終わってしまった。
ようやく歩き出し、祭りの会場へ着いた2人。
そこにはたくさんの屋台が並んでいる。
「どうする、砕…」
そう言いかけた刹那。
「修兵〜、砕蜂隊長〜‼
お二人さん、アツイわねぇ〜!
かき氷食べて冷えてってよ〜」

松本乱菊から声をかけられる。
「今なら、砕蜂隊長をイメージしたハニーレモン味ありますよぉ〜?早くしないと、売り切れちゃうかも〜」
「な、そんなものがあるとは聞いてな…」
「だって言ってないですもんw」
「なっ…」
「あ、じゃ乱菊さん、俺それ一つ買います」
「あら修兵!毎度〜♡
じゃ、砕蜂隊長も、修兵をイメージしたコーラ味、食べます?」
「……それ、別に俺イメージしたわけじゃないんじゃ…」
「ん〜?何か言ったぁ?」
「いえ、すみません」

「隊長〜、氷、氷早く‼」
「いつになったら終わんだよ⁉」
「完売するまで♡」
「うがぁぁ‼早く解放しろっ‼」

「…日番谷隊長、大変だな」
「ああ、気の毒だ…。」


「お待たせしましたぁ♡毎度あり〜‼宣伝してきてね修兵♡」
「へいへいっと…じゃ、頑張ってください」
「ありがとー
あ、そこのお兄さん、ちょっといいかしらん♡」

乱菊の切り替えの早さに顔を見合わせて笑う砕蜂と修兵だった。

そんなやりとりをし、かき氷を持って軽く店を見て回った。
斑目・弓親コンビや恋次や吉良など、たくさんの人に会ってしまい、修兵はその度冷やかされた。

たくさんの知り合いに冷やかされた修兵は機嫌が悪そうだが、砕蜂は珍しく終始ニコニコしていた。
しばらくすると、あまりの人の多さに、2人は早々に引き上げてしまった。


あの道を、2人で帰る。
たくさんの人がまだ会場へ向かっている。人ごみに呑まれつつ、手を握って歩いた。

しばらくすると再び花火が上がり始めた。
「おい、修兵…?」
「ん、何………?」
「花火、見ていかないか?ここら辺で。」
修兵は砕蜂が珍しく自分から意見を言ったので、少し驚いた修兵。
「ああ、疲れたしな。じゃ…あの林で見るか。人いないし。」
笑顔で応えた修兵に、砕蜂も笑顔を返す。

サッと林に入って、木の影に座る。
砕蜂は修兵の腕に頭をあずけた。
「綺麗だな。……修兵と、見られて、良かった。」
花火の音にかき消されながらも砕蜂はボソボソと言った。
「え、砕蜂…今何て……っ」
修兵は顔を赤くして砕蜂を見た。
砕蜂は修兵の腕に顔を埋めた。
「うるさい。もう言わんっ」
「…デレ期すか…可愛過ぎ」
「……っ、修兵は?」
「へ?」
「だからっ、修兵は⁈」
まだ赤い顔をばっと上げて、修兵を上目遣いで見る。
…その顔はセコいよ。
「俺も砕蜂と花火見られて良かった。大好き。」

互いに微笑みながら初々しいやりとりを繰り返す2人。
すると、ハートの花火が逆さまに上がった。
「ふふ、修兵、あれって…ハートか?」
「ああ、多分なっ…逆さまだな。」
顔を見合わせて2人は笑った。



「…好きだよ」
「……ん」
そして、どちらからともなく、
キスをした。
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