tale

□白
1ページ/1ページ



1人、暗い道を歩く。

今日はとても寒く、雪まで降り始めた。

仕事が遅くまでかかってしまい、檜佐木には今日も会えなかった。

なんとなく寂しい…なんて、私は一体何をくだらん事を考えておるのだ。

瞬歩で帰ろうかとも思ったが、なんとなく、身を小さくして凍えながら歩く事にした。そういう気分だったのだ。


1人で歩く帰り道はやけに長く感じられた。いやに寒いし雪も冷たい。自分の吐息が白く、綺麗で、それを見ているとなんだか切なくなった。われながら、女々しくなったものだ。


「……寒いな…」


小声で呟いた声は風にかき消された。なんだか無性に会いたくなってきて、たまらず名前を呟く。


「…修…へ………」


「お呼びですか?」



いきなり聞こえた声に耳を疑う。
しかしそれは、まちがえようもない、彼の声だった。


いきなり身動きが取れなくなるが焦りはない。暖かい。


「もう…遅いっすよ」



そう言って檜佐木は私を抱きしめた。


「寒いわ、莫迦者。早く行くぞ。」


暗がりで顔が見えないのをいい事に、私は微笑みながら、彼の手を握り、歩き出した。


その日の雪は白くておだやかで
美しかった。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ