芸術祭

□その選択は間違いではなく
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『赤』と聞いて連想するもの。

情熱。熱血。炎。太陽。夕陽。リンゴ。

…血液。


『赤』は、血の色。生命に宿る色。生き物の身体を流れる、血潮の色。
――…『赤』は、生命(いのち)の色。



私は正直、赤という色が苦手だ。
明るい色よりも、青や黒といった落ち着いた色が昔から好きだった。それよりなにより…自分には、こんなに明るくて鮮やかな色は眩し過ぎる。

そう、思っていた。
…「あの人」に、出会うまでは。






あの日。
私が私でなくなった日。
私が「今の私」になるまでの過程。そこで訪れた、1つの選択。

慈愛の緑。無欲の紫。赦しの金。幸福の紅。

…自分が生涯添い遂げる相手に、何を望むか。


私は始め、その意味を深くは考えず、色の好みだけでそれを吟味した。

少なくとも紅は…赤はないな。と私は思った。
"幸福"という言葉に惹かれるものはあった。けれど赤という色が、その色に対する苦手意識が、それを選択することを良しとしなかった。

赤は除いた残り3つ。そこから私は選ぶことにした。


慈愛。…つまりは優しさ、ということだろうか。確かに優しさは必要だろう。しかし、常に優しく…なんて、自分には合わない気がする。

無欲。…何も求めないことが、果たして良好な仲へと繋がるのだろうか。

赦し。…これが良い気がする。互いに許し合うことが、大切だ。私が相手に求めるのは、きっとこれだ。

私は決断し、金色の光に手を伸ばした。そして私の意識は、暗い闇へと沈んでいく。





「―――――……?」

意識が少しずつ浮上し、私はうっすらと目を開ける。
全身に柔らかい感触。これは、ベッド?

「気が付いたかな?新しいあたしのアナザー」

声のする方に視線を向ける。
…鮮烈な赤が、まず始めに視界に飛び込んだ。


「…貴方は、誰ですか?」

「あたしはミセリア。この南ウィッカを統べる不幸の魔女さ」


不幸。赤。…幸福の、赤。
なんてことだ。私は金を、赦しを選んだつもりが、一番あり得なかった筈の赤を選んでしまったようだ。

「…選択、間違えたんですね、私」

「?…何を言っているんだい?」

「私はあの時、赦しを選んだ筈でした。なのに私は、赦しの金色じゃなくて幸福の赤のウィッカ…貴方の元に来てしまった。とんだおっちょこちょいですね」


そう自嘲気味に呟く私を見てか、ミセリアと名乗ったその女性は、突然小さく吹き出した。


「…ふふっ。君、面白い子だね」

「…?」

「何も君は間違えてない。
君は無意識の内に、この赤のウィッカを…幸福を、選んでいたんだよ。あの選択では、自分に嘘は吐けないんだ。

君は頭では赦しを選んだのかもしれないけど、本能では…心では、本当は幸福を求めていたんじゃないかな?」


私の本能が。私の心が。
本当は、幸福を、求めていた…?


「なんて、あたしの憶測に過ぎないんだけどね。
でも、仮に君が本当に赦しを選んでいて、手違いでこの南ウィッカに来てしまったんだとしても、あたしは君を手放さないよ?」


ミセリアさんの手が、私の頬に触れた。ミセリアさんの赤い目が私を見つめる。惹き付けられる。逸らせない。


「ミセ、」
「あたしに忠誠を誓うんだ。
あたしの為に戦って、あたしを真の魔女にしておくれ?」


なんて強引な口振り。その筈なのに、嫌悪はない。そう、寧ろ…


この人に仕えることが、当たり前で、普通で、…私の、義務のような。


「はい…ミセリア"様"」


"この方の為に戦おう"と、私は思った。それが使命だと思った。

ミセリア様は、満足そうに笑う。

苦手だった赤色が、ミセリア様が身に纏う赤色が、今ではとても、神々しく見える。


「上出来だよ。

――…さぁ、あたしの敵を、血祭りに上げておくれ?」


可愛らしい顔立ちなのに、その言葉は過激。血祭り、だなんて。
けれど、きっとそれがミセリア様なんだろう。


差し出された手を取って、私も笑う。


「まだまだひよっこですが、よろしくお願いします。ミセリア様」





『赤』と聞いて連想するもの。

情熱。熱血。炎。太陽。夕陽。リンゴ。血液。そして、ミセリア様。

赤は生命の色。ミセリア様は、私の生命(いのち)。


この日、苦手だった赤色が、少し好きになった。


end
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