夢小説〜short詰め合わせ〜
□たとえ陽が昇らなくとも
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「また、遊びに来ていたのですか、奈鶴さん」
「はい。今日も金魚草は元気そうです」
「おかげさまで」
その黒髪で色白の少女は動植物愛好家の中ではとても知られている名だった。
まあ、少女と呼べる程の年齢ではないのだが。
「身体の調子はいかがですか?」
「今日はいつもよりも元気ですよ。走れるぐらい元気です」
胸を張る少女の瞳は真っ直ぐで何よりも澄んでいた。
そんな少女を見ていると彼もまたやる気というものが起きるものだ。
「でも鬼灯さんはお疲れのようですね?」
「ええまあ、ちょっと徹夜していまして。寝ずの二日目です」
「死んじゃいますよぉ、そんなに頑張ったら」
「気をつけますよ」
鬼灯の背丈の半分ぐらいの高さの少女は大袈裟な身振り手振りで表現していた。
ぴょんぴょんと、あるいはぱたぱたと。
そんな少女を見て鬼灯は目を細めた。
「あ、そうです。改良した肥料を差し上げようと思って持って来たのですが…いります?」
少女は横に置いてある袋を指差しおずおずと聞いてきた。
そんな顔せずともいつも二つ返事で鬼灯は貰っているというのに。
「もちろんいただきますよ。貴方の肥料はとても良いですからね」
「そんなことないですよ!私なんてまだまだ!」
ぶんぶんと首を振る少女。
そして照れたように笑った。
「ご病気の方は?」
「ああ、そんな気にしなくとも大丈夫ですよ。病は気からと言うではありませんか?ね?」
「何がね?ですか。大方勝手に家を出て来たのでしょう?」
「あんな所に居ては息が詰まります。金魚草の世話もさせてくれないんですよ?」
今度はむっと膨れっ面になる少女。
可愛らしく見た目相応の表情だった。