短編

□1日目
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「はぁ…ホントあり得ないでしょ」


私は硬くて美味しくないパンを貪りながら溜め息をついた。


「どうした名無しさん?
ただでさえ酷い顔が目も当てられんことになっているが…」


「うるさい。
兄ちゃん、あんた兵士長よね?」


「そうだが、今更どうした?」


「あいつに文句言えるのはもう兄ちゃんしかいない!
あの独裁ヅラ野郎「おはよう、名無しさん!」


私は今一番聞きたくない声を聞いてしまい固まった。


「おはようございます、エルヴィン団長」


「今、独裁ヅラ野郎って聞こえた気がしたんだけど…」


「気のせいじゃないですかね?
…年増なくせに地獄耳かよ」


「あ、それも聞こえてるからね?
いや、これが名無しさんの愛情表現なのかな?」


「断じて違いますから。
兄ちゃん、このオッサン削いでくれない?」


「お、お前…なんで急にそんなエルヴィンに対して当たりが強ぇんだ?」


リヴァイをはじめ、ハンジさんやミケさんなど、その場にいた者全員が目を丸くしていた。


「実は、団長と一週間…」


私は昨日の出来事を話した。


「あっはははは!エルヴィンやるねぇ!
最高だよ!」


「おいエルヴィン、俺の妹に手を出したら削ぐからな」


「いや、もう今すぐ削いで欲しい」


私にこれだけ暴言を吐かれても終始笑顔のこのオッサンはどれだけメンタルが強いんだ!

そろそろその超硬質メンタル、折れてくれないかな?


「本当にあり得ないです。
職権使って恋人とか…」


私はこの件に関してすごく腹を立てている。

それはもう、腸が煮え滾るほどに。

こんな男が団長で、この調査兵団は大丈夫なのだろうか?


「名無しさん、そんなに怒らないでくれ」


「怒るに決まってるじゃないですか。
そのカツラ取ってやりたいくらいです」


「まあ、俺としては妹の貰い手が見つかってほっとしてるんだが」


なんでほっとしてんの!?

妹の貞操が危ぶまれてんだぞ!?

兄ちゃんが最後の希望だった私は絶望的だった。


「まぁまぁ、落ち着いて。
怒った顔もすごく可愛いよ」


うわぁ、歯が浮くようなことをさらりと言いやがった。

正直、鳥肌もんだ。


「ほら、私のスープに入ってる肉あげるから」


「えっ…本当?」


エルヴィン団長はニコニコしながら私の目の前に肉の乗ったスプーンを差し出してきた。

さっきまでは憎かったのに、今では信仰したいくらいだ。


「ん、…ふふ、美味しい」


隣で兄ちゃんが餌付けだ、と呟いたのは聞かなかったことにしよう。


「ははは、これで名無しさんと間接キスだな」


ちょっと待て、これは聞き流せませんね。


「うわ、キモい!
そのスプーン寄越してください!
今すぐ捨ててくるんで!」


「それはできないね」


団長はにこやかにそう言うと、そのスプーンで見事完食されました。


「マジで殺りたい…」


「え、ヤりたいのかい?
じゃあ、今晩にでも私の部屋に…」


「はい、ブレード持っていきますね。
そして二度と目覚めることの無いようにしてあげますから」


キスはもちろん、間接キスでさえも初めてだった。

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