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昼頃、顔に照りつける眩しい日差しと、鳴り響くチャイムに目を覚ました。
チャイムの音が頭に響く、と思いながら体を起こせば何となく違和感を感じる。なんだと思い部屋を見回してみるが特に何もない。何か昨晩やらかしたのだろうか、と思うが何も思い当たる節がない。取り敢えず来訪者を告げる煩いチャイムを止めるべく玄関へ向かい、カメラで玄関を確認すれば、何となく見覚えのある男。
暫く考え、ふと思い出したのは、帰り道に寄った店の事だ。余りにも疲れていたし、酒も入っていたのですぐには思いだせなかったが、自分は確か、そう考えたところで腰に衝撃が来る。
何だと見ればベビーブルーの頭が見え、あの少年だと言う事が分かる。違和感の正体はこの少年から香る香りだったわけだ。


「…そう言えば勢いで買っていたな」


少年は顔を上げると赤司の顔をじっと見つめ、まるで「おはようございます」と言っているようだ。
大きな目に見つめられる事で少し気まずさを感じ、赤司は溜め息を吐くと頭をくしゃりと撫で、マイクに向かって今出ますと声をかけた。



「おはようございます」
「…ああ、おはよう」
「昨夜はお買い上げ有難う御座います。本日は観用人形のお洋服やミルクのお届けに参りました」
「…そうか、取り敢えず中に入れ」
「失礼いたします」


確か、買い取る際、昼間に家に来てくれと言い、金を支払い住所を置いてさっさと家に帰ってしまった。
男は律儀にやって来たわけだが、低血圧な赤司には大層なご挨拶をしてくれた。


「失礼いたします。こちらのミルクが観用人形のエサになります。日に三食、人肌に温めたミルクを与えてくださいませ。それから彼は香り人形(ポプリ・ドール)でございます。ミルクと共にこちらの香り玉を与えてください」
「香り人形?…嗚呼、先ほどから香るのはこの子からしていたのか」


初めて少年に会った時も香った。店に飾ってある花の匂いかと思ったのだがどうやら違うらしい。
少年を見れば小さく首を傾げて見返してくる。


「はい、よい香りでしょう?それから、週に一度、肥料として砂糖菓子を与えてくださいませ」


それから、と次へ出してきたのは大量の服だった。どれも高級品質な物であろうということはわかるが、その量に流石の赤司も顔を引きつらせた。
結局、少年の為の服を15着買う事になり、かなりの額になった。余り思い出せないが、この少年を買う時も余りの高さに口元をひきつらせた覚えがある。


「では、ミルクが切れましたらお申し付けください」
「ああ、また何かあったら店に伺うよ」
「そうだ、最後に一つ、宜しいですか?」
「なんだい」
「観用人形に必要なのは愛情でございます。愛が不足しますと枯れてしまいますのでお気を付けてくださいね」


口元へ指を立ててウィンクする店主はそれかた、と話を続けた。


「普通、観用人形は名前を皆さまに付けて頂くのですが、彼には名前があります」





「テツヤ」


赤司が呼べばソファーに座っていた少年、テツヤが駆け寄ってきては赤司の前で止まり小首を傾げる。


「いいかい、君はボクの言う事をきちんと聞くんだよ。言う事を聞かない子は嫌いだよ」


こくん、と大きく頷いたテツヤに赤司はわずかに口を緩ませ、頭を撫でてやれば、テツヤは猫のように目を細めてその手に頭を擦り寄せた。






(さて、ミルクでも温めようかね)

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