まだタイトルは有りません

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漸く、長い事進めていたプロジェクトがひと段落つき、今日は社員達を労う為の食事会をし、帰りが遅くなった。腕時計へ目をやれば時刻は既に2時を回り、3時になりそうだ。
少し長居をし過ぎてしまった、と思いながら、後ろへ撫でつけた前髪を軽く乱し、ネクタイを緩めた。
まだ社員達は飲んでいるらしいが、流石に疲れているので帰って眠りに就きたい。明日は久々の一日だし、昼頃まで寝倒そう。そして伸びてきた髪を切りに行こうか。まあ、起きてからまた考えるとして、今はいち早くベッドへ倒れ込みたい。
タクシーで返ればよかったのだが、あまりタクシーは好きでないので断ったのだが、思えば店から家までそれなりに距離があった、と歩きながら思い直した。
そこまで頭が回らなかったとは、今日は飲み過ぎただろうか。

どの店も、家も静まり、街灯だけが道を照らす中、少し遠くでぽつりと明かりが点いている店があった。
通りすがりに店を見れば、赤司はほう、と息を吐きだして魅入った。ショーウィンドウの中で目を閉じて佇む少女。彼女は頭からつま先まで綺麗にされており、誰もが見惚れる姿をしており、まるで天使だ。
しかしながら、見た目は人間のように見えるかもしれないが、彼女は“観用人形”だ。赤司が観用人形を見るのは2回目である。

観用人形とは、人そっくりの作りをした人形だ。しかし、普通の人形とは違うところは、観用人形には感情があることだ。逆に人と違うとすれば、喋る事が出来ない事と、食事は最低限しかとれない、それから“歳をとらない”事。
しかし、未だに観用人形は未知数で、様々な噂を聞く。

赤司は暫く観用人形を眺めていると、店のドアがベルを鳴らして開いた。
見れば髪を長くのばしたチャイナ服の男が顔を出していた。


「こんばんは。宜しければお茶でもいかがですか?」


にこりと笑う男に話しかけられ、断るつもりだったのだが何故か頷くと、吸い寄せられるかのように店の中へと入った。

店主であろう男に椅子を勧められ、椅子に座りながら店を見回す。
店内は蝋燭の明かりで照らされており、暖かい光りに照らされ、浮き出るのは幼い少女、否、観用人形達だ。しかしどれも目を閉じており、自分だけの主人がやってくるのを待っている。
暫くすると店主がお茶を持ってやってきて、渡されたカップに口を付ければほっと息を吐く。


「観用人形を見るのは初めてですか?」
「いや、お得意先でひとり、持っている人が…」
「おや、そうでしたか」
「だが、こうしてじっくりと見るのは初めてだ」


白く、パールの肌はふっくらと柔らかく、頬にはほんのりと朱がさしている。閉じた瞳を囲うまつ毛は長い。文字通り人離れした美しさだが、どことなく寂しさを感じるのはまだ買い手が見つからないからだろうか。
観用人形は気難しく、商品自身が買い手を選ぶと言う。そしてその値打も相応で、庶民の手が出ない、貴族の為の愛玩具と言われている。


「お客様、貴方様をお待ちの子がいらっしゃいます」
「…どういうことだ」
「貴方がこの店の前に立った時から、ずっと貴方をお待ちです」


どうぞ、とカーテンの奥へ導かれる。赤司は一瞬躊躇ったが、淡く光その輝きに魅かれる様にして足を運んでいくと、今まで見ていた観用人形とは異なったモノがそこにあった。


「…男?」
「はい。珍しい、少年型の観用人形でございます」


月のような青さを持つ、淡く輝く髪はショートカットに揃えられ、肌の色やその柔らかさは他の少女達と劣らず、零れんばかりの大きな瞳は髪と揃いの青。ジッと見つめてくるその少年は椅子からゆっくり立ち上がり、赤司へと手を伸ばした。

肌に触れた手は暖かい。ふわりと香った香りは何の花だろうか。


「貴方を気に入られたようです」







(待っていました)(そう、聞こえた気がした)

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