long story parallel

□続 歌うたい
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振り向けば、そこにいたのは、優しくてとても脆いあの人だった。



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「それで?今は何してるの?」

喫茶店でアイスティーの氷をかき混ぜながらその人は聞く。

「あ、うん。.......今一緒に暮らしている人がいるんだ。」

切れ長の目が少し見開かれる。

「.....へぇそっか。」



少し意外そうに笑うのは、昔のオレを知っているから。


昔のひょんも知ってるけどね。



「それで、じんぎさんは最近どうなの?」

そう聞けば、少し寂しそうに、ただ笑うだけで。

オレはじんぎさんを取り巻く環境が昔のままなのだと悟った。



「そっかぁ.....。」

と言ったっきり、じんぎさんにかけるべき次の言葉が見つからない。


無言のまま二人で飲み物をかき混ぜる。




昔からオレたちに会話は少なかったことを思い出す。

変わってないな、と小さく笑う。

なに笑ってるの。と、少し拗ねた顔も変わらない。




あの頃のオレたちは、傷ついた心を二人で舐め合って埋め合っていた。


ジンギさんには恋い焦がれている人がいたけど、すぐ近くにあるのに永遠にかなうことのない恋に苦しんでいたし

オレはその日を心のおもむくままに生きていて、生きる気力もなく、人知れぬ痛みを抱えていた。


大袈裟に聞こえるかもしれないけど、そうだったんだ。





愛なんてない。それが当時のオレたちが出していた結論だった。




裏切られては泣くジンギさんのことを、なぜかオレは放っておけなかった。


でもオレらは肌を重ね合う方法しか知らなくて。


逆に深く刻まれていく傷を、見てみぬふりしていたんだ。






あのことを懐かしく思い出せる日が来るなんて、思いもしなかったな。







あのね、と切り出す。


すっかりぬるくなったアイスティーから目をあげたじんぎさんの目線がぼんやりとこちらを見る。


「愛はあったんだ。じんぎさん。」


また見開かれる目。


なんでこんな事言ったんだろう。多分、オレはじんぎさんに幸せになって欲しかったからだと思う。





じんぎさんの目が伏せられてしまう。


「それは幻想だよ。じょんひょな。」



また寂しそうに笑った。






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