オハナシ 1

□man on the moon
1ページ/1ページ

月がやけに綺麗で、ふと部屋の前で酒を飲み始めてしまった。
空気中の水分が増す春は月も潤んで見えるから不思議だ。
それに、今日はやけに静かだ。
ちよがいないせいか。

ちよは巳船のところに出かけている。
明日になったら迎えに行く予定だ。

「たまには女同士もいいんじゃねぇの?」

一人呟き、杯を傾ける。

以前はこの静けさが当たり前だったはずなのに
少し静か過ぎるように感じてしまう自分に苦笑してしまう。
膝枕もできないので、ごろんと廊下に転がり月を仰ぎ見る。

同じ月を見ているだろうか?
それとも巳船と盛り上がっているか。
それにしても、
さきほどから考えているのはちよのことだけだ。

「まったく。」

「何がだ?」

独り言のはずが返事が返ってきた。
目だけ動かし廊下のほうを見やると家盛が立っていた。

「なんでもねーよ。いつからいたんだよ。」

「今だ。」

「なんか用か?」

また月に視線を戻して問うと、頭上あたりにコトリと何かが置かれた。

「あ?」

「肴だ。酒の。」

「おー。」

のそりを体を起こして置かれた皿を見る。

「・・・なんだこれ。」

「菜の花だ。少し野菜を食え。」

「気が利くと思ったのに説教かよ。」

ニヤリと笑みを返すと家盛もその場に腰を下ろした。

「静かだな。」

「おい。話を逸らすなよ。」

「逸らしてなどいない。酒も持ってきたが、これを食ったらやろう。」

「その前にお前が飲むんだろ。」

「そうだな。」


そういえばこうやって会話をすることも、
ましてや酒を酌み交わすことなど今までなかったことだ。
これも。

「結局ちよかよ。」

「何がだ?」

「こっちの話だよ。」

「そうか。」

夜はまだ長い。
明日は昼頃に迎えに行けばいいか、と勝手に予定をたてて
また杯に口を付けた。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ