オハナシ 1

□Poisson d'avril
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家盛はちよの部屋へと向かっていた。
今朝からいつもと様子が違うようにに感じ、気になっていたのだが
彼女も忙しいのか姿を見かけないので自ら向かうことにしたのだ。

「ちよさん、入ってもいいか?」

いつもならすぐに御簾を上げて迎え入れてくれるのだが、返事がない。

(出かけているのか?)

「ちよさん?」

御簾を上げて部屋を覗くとちよの姿はなかった。
代わりにまろが丸くなって眠っている。

「これは、ちよさんの?」

まろの首には朝餉の時にちよがつけていたコサージュの花が巻かれていた。

「まろ、ちよさんはどうしたんだ?」

聞いたところで答えが返ってくるはずもないのだが、眠っているまろに問いかけてみる。
と、
外から鼻歌と足音が聞こえた。

「ちよ〜!」

御簾を上げて八雲が入ってきた。

「八雲さんか。ちよさんはいないようなんだが。」

「は?家盛さん、何言ってるの?そこにいるじゃないの。
ちよ、買い物に行く約束でしょ〜。準備いい?」

言うなり寝ているまろを抱き上げて八雲はさっさと部屋を出ていってしまった。

「や、八雲さん……?」

訳がわからずあわてて部屋を出て八雲を追いかけると、
廊下の先で清盛と話をしている八雲が見えた。
何故か義朝と颯太もいる。

「おー。八雲、ちよと出かけるのか?」

「そうよー。颯太も一緒にね。天気もいいしお買い物日和よね!ちよ!」

「気を付けて行ってこいよ。」

「颯太、頼んだぞ。」

「はい。義朝さん、清盛さん。」

「え…………」

いつもどおりのなんこのとはない会話。
ちよがまろ、ということ以外は。

何かがおかしい。
というより、おかしい点は明らかなのだがそれを誰もおかしいと思っていない様子がおかしい。
家盛は混乱しつつ、彼らに歩み寄った。

「じゃあ家盛さん、ちよ借りるわね〜!」

まろを抱いた八雲がぶんぶん手を振りながら颯太と共に出かけてゆく。
呆然とそれを見送り、清盛と義朝を振り返った。

「あれは…」

「あ?買い物だってよ。まーたまには3人でってのもいいんじゃねぇの?」

「そうだな。」

「いや、そうではなく、ちよさんが…」

「ちよがどうかしたか?」

「あれはまろでは…」

「は?まろって何だ?」

「どうした?家盛。」

2人と会話が噛み合っていない。
くるりと踵を返し、家盛は自室へと戻った。
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