オハナシ 1
□tongue-tied
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ノリちゃんが、桜の髪飾りを作ってくれた。
春。
桜は少し和らいだ日差しにほころび始め、明日には満開になりそうだ。
満開になるまで待とうと思っていたけれど、気分は満開。
春の陽気に誘われて髪飾りをつけてみた。
「どうかな?」
(家盛さん、気づいてくれるかな?)
鏡の前で確認して、朝餉の手伝いをしに台所へと向かう途中、欠伸をしながら歩いてくる清盛さんに会った。
「お。桜か。」
「あ、清盛さん。おはようございます。早いですね。」
「おー。まろに起こされた。」
「桜、もうすぐ満開ですね。」
「じゃなくて。」
つ、と清盛の指先が近付き髪飾りをチョンとつついた。
「あ。これですか。ノリちゃんが作ってくれたんです。」
「へー。あいつやっぱ器用だな。」
「可愛いですよね。」
「お前がつけてるからじゃねーの?」
「え?」
「似合ってる、ってこと。」
そう言って清盛は髪飾りから頬へと指を滑らせ軽くつまんた。
「き、清盛さんっ!」
「腹減った。あいつ手伝うんだろ。」
「もう…」
ヒラヒラ手を振りながら去ってく清盛を見送り、台所へ向かおうと振り返るとこちらを見つめている家盛が目に入った。
「家盛さん、おはようございます。朝餉のお手伝いしますね。」
「ああ。頼む。」
(気づいてくれるかな?)
並んで歩き出す。
と、
すぐまた家盛は立ち止まった。
「?」
「ちよさん、その…」
「はい?」
「…いや、おはよう。と言ってなかったな。」
「はい…」
そのまま朝朝餉も終わり、各々が仕事をしに散っていくとちよは膳の片付けをしなから軽く溜息をついた。
(髪飾り、気づいてもらえなかった?もしかして似合ってないとか?)
こういう日に限ってなにかとすることが散在していて、
なかなか家盛と顔を合わせる機会がない。
気づけばもう夕餉の後片付けをしている自分がいる。
(家盛さん、気づいてくれなかったなぁ。)
肩を落として自室へ向かうと部屋の前に家盛が立っていた。
「家盛さん、どうかしましたか?」
「いや、その……」
少し目線をそらし気味の家盛を覗き込むように見上げると、
家盛はさらに目をそらし外を向いてしまった。
二人廊下に立ち尽くし、外の桜を眺める。
「桜が…」
「キレイですね。」
「ああ。でも。」
「?」
ちよは小首を傾げて、家盛の言葉の続きを待つ。
「ちよさんのほうが、綺麗だ。」
桜から目を離さずに、でもきっぱりと言った家盛の横顔が赤い。
「あ、」
(もしかして、髪飾り気づいて?)
髪飾りに手をやるとそれに重ねるように家盛がちよに、手を伸ばした。
「今朝、あいつに先に言われてしまって、なにか違う言葉を、とずっと考えてたんだが、思いつかなかった。」
「遅くなって…すまない。」
真っ赤な顔で眉間に皺を寄せながらそう言う家盛さんをとても愛おしく思った。
きっと朝からずっと言葉を選び、悩んでいたのだろう。
「とても良く似合っている。」
「ありがとうございます。」
全部が嬉しかった。
一日中かける言葉を考えてくれたことも。
もちろん褒めてくれたことも。
重ねた掌が熱い。
そのまままふたりで満開に開いた桜を見つめ続けた。