オハナシ 1

□うるさいけれどスゴイヤツ
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「ちよさん、これは・・・?」

「え?ああ、これは掃除機っていって。
まあ掃除をする道具です。」

「これが掃除を?」

「そうです。ここの長い棒の先でごみを吸い込んで、で、こっちにたまっていくんです。」

「ごみを吸う、のか・・・?」

瞬きもせずに眉間にしわを寄せながら一定の距離を保ちつつ、
掃除機と対峙している家盛さんをみて
思わずクスリと笑ってしまいそうになるのをこらえながら、
ちよは掃除機のコンセントを引っ張り出して差し込んだ。

「かけてみましょうか?ちょっとうるさいですけど。」

「うるさいのか?」

「ちょっとこれは音がうるさいんですよ。でもその分すごいというかなんというか。」

ちよが掃除機を構えて部屋の真ん中へとゴロゴロ転がしていくと、
家盛も一定の距離を保ちつつ部屋の隅へを移動した。

「やってみますか?」

「いいのか?」

おずおずと掃除機に近づいて来た家盛に寄り添うようにして立ち、
手を添えてスイッチを入れる。

ゴオオオオオオオオオオオ

ちよにしてみればいつもの掃除機の音なので気にならないのだが、
家盛は眉間のしわをいつもより数本多く刻んだ状態で固まっていた。

「ちよさん!!!!」

「はい?家盛さん、見てくださいよ。埃とか吸い取られていくでしょう?」

思わず笑ってしまいそうなので、家盛の言葉を聞かずに掃除を始めてみた。

「ちよさん!!!」

「はい?」

「俺にひとりでやらせてはもらえないだろうか?」

音に驚いていたので嫌がっているのかと思ったら、意外な反応が返ってきた。

「どうぞ。」

掃除機から離れ、その様子を眺めてみる。

「すごいな。埃がどんどん吸い込まれていく。」

(あれ?楽しそう?)

はじめにスイッチを入れたときよりも表情が和らいでいるように見えた。

「楽しいですか?」

「ああ。これはすごいな。」

要領を得たのか、かける速さを少し早めながら部屋中をあちこちかけ始めた。

ガン!

テーブルの足に掃除機がぶつかり、音を立てると家盛は思わず掃除機から手を離してしまった。

「すまない・・・ちょっと驚いて。」

「いいんですよ。気にしないでください。」

この時代の物は家盛にとっては
大概大きな音を出すように思う。
人も物も多いせいなのだろうか。
だがこの音の大きさはほかとは比にならない。
掃除機、というものがみんな同じように大きな音を出すものなのか
他の掃除機を見ていないので比べようもないのだが、
とにかく掃除機は素晴らしい。
そして楽しい。

ちよの部屋で生活しだし、
彼女に迷惑をかけては、と思い
いろいろ興味のあるものがあっても触れないようにしてきた。

(掃除は毎日やろう。)

彼女が出かけている間に部屋をきれいにしておくことはいいことだと勝手に納得して掃除を日課に追加することにした家盛だった。

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