a place to smile
□4・modulation
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夜が明け始め、空がうっすらと明るくなってきた。
まだ人気の少ない廊下を後白河はちよの部屋へと急いでいた。
昨日は部屋に戻り際、家臣に捕まり公務へ戻らざるを得なくなり、結果ちよを置き去りにする様なかたちになってしまったのだ。
「ちよ、起きているか?」
部屋の中からは返事がない。まだ眠っているのか。
そっと御簾を上げて中を伺うと、ちよは褥にはおらず脇息にもたれたまま眠っていた。
「ちよ…」
部屋に入ると、ちよの傍らに座りそっと頬を撫でた。
文机には淡い桜色の瓶が置かれている。
そっと手にとると、昨日の香りが鼻を掠めた。
ちよのところから持ち込まれた香り。
瓶も見たことのない美しい色と形だった。
「帰りたく、なったのか?」
だとしたら、それは寂しい想いをさせてしまった自分のせいだ。
「ん…」
睫毛が僅かに揺れ、ちよがゆっくりと顔をあげた。
「ここで寝ていたのか?」
「あ…」
「すぐに戻れなくてすまなかったな。」
「いえ。お忙しいのですから、仕方がないです。」
頬に寄せた手に擦り寄るようにしてちよは微笑んだ。
「あ。」
ちよはふと何か思いついたように顔を上げ、居住まいを正して後白河を見た。
「おはようございます。」
「…ああ。」
後白河は突然の挨拶に多少面くらいながらも笑って立ち上がりちよの手を引いて立ち上がらせた。
「あの…?雅仁さま?」
「夜が明け始めたばかりだ。まだ起きるには早い。」
そういうとちよを抱き上げ、褥へと向かった。
「俺もさすがに疲れた。少しの間、一緒に眠ってくれるか?」
「…はい。」