オハナシ 1

□Singin' in the Rain
1ページ/1ページ

夕餉の後、片付けを終えたちよは自分の部屋へと廊下を歩いていた。

「あ、雨?」

気づけば外は雨が降っているようだ。
シトシトと密やかに落てくる水滴が庭の木々を濡らしている。

「明日は止むかな?」

そういえば清盛は明日出かける用事があると言っていた気がする。
雨に気付いていないかもしれないし、念のため、と雨が降っていることを伝えに清盛の部屋へと向かった。

「清盛さん、ちよです。」

声をかけてみたが返事がない。

(?もう寝ちゃった?)

起こしてしまっては申し訳ないので戻ろうとしたところで
誰かにぶつかってしまった。

「わ!す、すいません!」

「俺だよ。何だ?」

「あ、えっと、雨が降っていたので一応お知らせに、と。」

「そうか。ありがとな。」

ポンポンと頭を撫でて清盛は微笑んだ。

「どういたしまして。明日には止むといいですね。」

「そうだなー。雨の中出掛けんの面倒くせぇな。」

がしがしと頭をかきながら空を見やる清盛に並んでちよも空を見上げた。

「でも私、こういう雨結構好きかも。」

「?」

「いつもより静かな気がしませんか?」

「雨音がしないからか?」

「それもありますけど、普段の生活音とかも音が雨に吸収されてるみたいな気がするんです。」

「なるほどな。」

ふむ、と腕を組んで庭を見つめる清盛にちよは軽く会釈をして自室へと踵を返した。

「じゃあ、おやすみなさい。」

「おい。」

「はい?」

「行くのか?」

「え?」

振り返ろうとしたその腕を清盛に引かれた。
視界がくるりとまわり、気がつけば清盛の腕の中におさまっていた。
見上げると、ニヤリ笑う清盛と目が合う。
なんとなく嫌な予感がして体を離そうとすると、ギュッと体を引き寄せられてしまった。
耳元に触れるか触れないかの距離で清盛が囁く。

「音が吸収されるんだろ?」

「え?」

「だったら、多少大声出しても問題ねえよな。」

「声って…」

「お前のやらしー声」

「!」

「聞かせろよ」

ふ、と腰の辺りが緩んだ気がして慌てて手をやると、清盛の手が帯を解きにかかっていた。

「ちょっ…!ここ廊下!」

「じゃあ自分で結び直せよ。」

「い、いじわる!」

「そうかー?」

シュル、と帯か解かれ足元へ落ちた途端、ちよは清盛に抱きあげられていた。

「ちゃんと後で結び直してやるから。」

何か反論しようとして開きかけた唇はキスで塞がれてしまった。
強引な行動とはうらはらに優しく、甘いキス。

仕方ないなぁ、と軽くため息をついてからちよは清盛の首に腕を回した。

「ものすごーく難しい結び方、してくださいね。」

「おー。任しとけ。」

清盛の肩越しに一瞬、空を見やる。
もう少しだけ降り続いて、と。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ