短編〜妖精

□きみを酔わす
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「バッカスさーん!」

ここ四つ首の猟犬のギルドで、そのタラシで飲んだくれな男の名を、不釣り合いなほど純真そうな声が呼んだ。

「あれー?バッカスさーん?」

「俺ならここだぜ、ユリア」

「あ、バッカスさんいたいた」

「どうしたァ?」

既に酒が入ってとろんとした瞳と微かに赤い頬、素面の時より掠れた声が官能的だった。

いつも遠くから見ている姿とは言え惚れた男のそんな様子に心臓が大きく跳ねた。

それを悟られないように、努めて変わらない様子で言葉を繋いだ。

「あの!一緒に飲みませんか!」

なんら珍しくもないその台詞だが、彼女をよく知る者は眉をひそめた。

「ユリアお前酒飲めねェだろ」

宴の席では2人はいつも離れていた。別に仲が悪い訳ではないが年齢差とか酒の得意不得意で自然に別れていたのだ。

だから、そんな状況からの転換を求めて思い切って言ってみたのだがあっさり返されてしまった。

この機を逃したら二度とバッカスに近づく機会がない気がして、ユリアは必死に食い下がった。

「飲めますよ!」

「一杯で意識失う奴は飲めるって言わねえんだよ」

「バッカスさんとなら飲めるんです!」

「なんだそりゃ」

はは、と軽く笑いを漏らしたバッカスに心が折れそうになる。

「まァいい。こっち来い」

そう言ってバッカスは自分の隣を指した。

「はい!」

沈みかかった心が急浮上する。



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