放っておいてくれ
□放っておいてくれ4
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歩いていると、一年生を大勢見つけた。どうやら、木登りの実習をしているようだ。その一年生の担当教師らしい教師もいる。
取り合えず、近付いた。
「すいませーん。」
教師が振り向いた。土井だった。土井は心底驚いたような表情で雅斉を見た。それにつられ、一年生も雅斉を見る。
…相変わらず俺、注目の的だな。見物料とるかな。てか、木登り中の一年も俺のとこ見てるが、大丈夫だろうな。落ちねーだろーな。落ちても知らねぇぞ、俺は。
木登り中の一年を見ていたら、土井に肩をつかまれた。思わず土井を見ると、めちゃくちゃ真剣な表情をしていた。
…え、何さ。ちょっと授業中に話しかけたくらい気にすんなよなー。
「お前、大怪我したんだろ?出歩いて大丈夫なのか?」
…あ、違った。心配されてたのか俺。心配されるなんて珍しー…。
そんなことを呑気に思っていたら、木登り中の一年生が盛大に足を踏み外した。ちなみに、土井は背を向けているから見えてない。
…あれだと間違いなく落ちるな。
思考は落ち着いていたが、肩をつかむ土井を振り払って木に駆け寄る。
「雅斉?」
名前を呼ばれるが、そんなことを気にしてる場合じゃない。落ちかけてる一年生は手だけで木にぶら下がっている。落ちるのは時間の問題だ。
そこでようやく土井や周りで見ていた一年生が落ちかけてる一年生に気づいたようだ。
「喜三太!!」
…喜三太っていうのかこの一年生。
「う、うわぁぁぁぁ!」
声を上げて落ちてきた一年生をなんとか受け止めた。庇うように抱き締める。俺は体重を支えきれず仰向けに倒れた。仰向けに、だ。ちなみに、俺が怪我したのは背中だぞ。
地面に背中がついたというのは、背中からくる凄まじい痛みで理解した。
マジで痛い。叫びそうになるが、何とか堪える。
そんな俺のところに、土井先生と一年生が駆け寄ってくる。
「雅斉!大丈夫か!?」
…せんせー、大丈夫ではないですよー。痛いですよー。
が、そんな呑気にしている場合ではない。何とか痛みをやり過ごす。全身に冷や汗をかいていた。が、取り合えず上半身を起こし、いまだに俺の胸にしがみついている一年生を見る。
「おーい、無事着地したぞ一年生。無事かー?」
安心感を与えるために俺はわざと間抜けな声で問う。背中は痛いがな!なんか、最近やたら英雄的な行動してる気がする。英雄願望なんてないがな。俺は他力本願派だ!まぁ、今この学園に俺の力になってくれそうな人はいないがな。
喜三太というらしい一年生は俺の胸から顔を上げた。
「はにゃ…?」
まだ俺にしがみついているが、喜三太は状況を確認するとようやく安堵したようだ。一度俺から離れたと思うと、満面の笑みで飛び付いてきた。
「せんぱぁい!ありがとうございますぅ!」
俺は顔をひきつらせる。マジか。仰向けに倒れるな、これ。覚悟した。俺の背中が…。
が、仰向けに倒れそうになった俺の肩を誰かが支えた。俺は喜三太を受け止めると、後ろを振り向く。一年生の一人が支えていた。土井が喜三太を抱き上げる。
「喜三太、雅斉を放しなさい。」
「はにゃ?」
喜三太が離れると俺は立ち上がり、俺が仰向けに倒れないよう支えてくれた一年生を見る。
大きな眼鏡を掛けた一年生だ。
「ありがとう、一年生。大丈夫か?」
優しく声を掛けたつもりだが、思いきり睨まれた。
…あれ、何で?一年生にまで嫌われてたのか俺。すっげー有名人だな。
「何でそんな大怪我で出歩いてるんですか!傷口開いちゃいます!保健室で寝ててください!伊作先輩がすごい心配してたんですよ!」
怒鳴られた。なんか心配されてるのかされてないのかよく分からん。
「乱太郎、やめなさい。」
土井が優しく一年生を咎めた。俺を怒鳴った一年生は乱太郎というらしい。
俺は首をかしげた。俺を心配してたとかいう伊作先輩って誰だ?俺を心配するなんて風変わりな奴だ。それにしても、善法寺以外に伊作というやつがいるとは知らなかった。取り合えず善法寺は伊作一号、この一年生の言う伊作先輩は伊作二号と識別する。あの善法寺が俺を心配するなんて、空から火薬が降ってくるくらいあり得ない。だからこの一年生が言う伊作先輩と善法寺は別人のはずだ。
「なぁ、伊作先輩って誰だ?」
俺が問うと、全員がポカーンとした。え、伊作二号って、そんな有名人なの?そんな大人物なの?
他の一年生がさらに問う。
「中在家先輩も心配しておられました!中在家先輩は分かりますか!?」
…名前的に立派そうな家柄だなー。誰のことか分からないけど。
「立花先輩は分かりますか!?立花先輩もずっと心配していらっしゃいました!」
…橘の花なら好きだぞー。立花先輩って奴は分からないなー。
「食満先輩は!?」
…蹴鞠なら分かるぞー。
「潮江先輩は!?」
…海の近くに住んでる人かなー?
「七松先輩は!?」
…松は縁起がいいからなー。それが七かー。縁起がいい奴だなー。
つまるところ、俺は善法寺以外分からなかった。