放っておいてくれ
□放っておいてくれ2
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翌朝、雅斉は憂鬱な気分で目覚めた。憂鬱な気分の原因は、勿論時生と桐蔵からの文だ。二人が来たあとの面倒事を考えるとぞっとする。
が、それはもう仕方のないこと。雅斉はゆっくりと支度をした。
朝食には、なるべく遅く行く。あまり人に会わないようにという配慮だ。それなら早く食べに行くという方法もある。早く食べに行くと、自然と教室に入る時間が早くなる。雅斉にとって、教室の居心地はお世辞にもいいとは言えない。だから遅く行くのだ。
雅斉が食堂についた頃には人もまばらだった。雅斉に気がついたらしく忍たまは、六年生ならば心底嫌そうな顔をし、それ以外は関わりたくない、という様子を見せる。
俺だってお前らとは関わりたくないんだよ。よってこっち見るんじゃねぇ。
が、これを言おうものなら何をされるか分かったものではない。
雅斉は黙っていた。
今日の午前は裏裏山で五六年合同の実習だった。内容は、いくつかの班に別れて巻物を取り合うというもの。班はくじ引きで決まる。雅斉とは同じになりたくない、という視線のなか雅斉は仕方なくくじを引いた。
一人班って何でないんだよ!俺だってお前らと一緒になりたくない。
班を決めるたびに何度も思ってきた。が、どうしようもないことだ。
結果、伊作と竹谷、雷蔵との四人班になった。
三人の名前は分からないため、よく穴に落ちてるやつ(伊作)、髪の色素薄い奴(竹谷)、双子の片割れ一号(雷蔵。二号は三郎。雅斉は双子だと思っている。)と識別することにした。
四人集まると、お世辞にも好意的とは言えない視線を向けられる。俺は、礼儀正しく無視した。よく穴に落ちてる奴が俺から視線をはずすと、事前に渡された地図を開いた。手には今回取り合うらしい巻物が握られている。
「これが、今回の実習の場所の地図。今から作戦を立てるよ。まず、誰が巻物を持つか、から。」
「伊作先輩が持つのが一番では?」
双子の片割れ一号が提案する。双子の片割れ一号のお陰でよく穴に落ちてる奴の名前が分かった。ありがとう、双子の片割れ一号。まぁ、名前で呼ぼうものなら何を言われるか分かったものではないから名前では呼ばないが。以後、よく穴に落ちてる奴は伊作と認識することにする。
俺は作戦会議に参加すべく口を開いた。本来なら関わりたくないが、今は実習だ。その区別すらできないほど俺は愚かではないのだ。
「いや、それより俺が持った方がいいと思うが。」
俺の提案には、全員が不信感しかない視線を向けた。まぁ、仕方のないことだが。
「月波先輩が?」
双子の片割れ一号が俺に問うた。声にも不信感が盛大に含まれている。
俺は若干顔をひきつらせた。俺だって巻物持つ係りなんてしたくねぇんだよ。
「そうだ。」
「ですが、俺達は月波先輩を信用していません。」
髪の色素薄い奴があっさり言った。
仮にも俺は先輩だぞ。ちょっとは婉曲的に言えよコラ。
…まぁ、それはいい。俺だって信用なんかしていない。そもそも名前も知らない。
俺は髪の色素薄い奴に対して、厳しい口調で答えた。
「自重しろよ五年生。俺だってお前らの事を信用なんてしてない。お互い様だ。だがな、それは私情だ。間違っても実習の時に挟んでいいものじゃない。それともお前は上級生の癖にそれすらも分からないのか?」
髪の色素薄い奴は目を伏せた。心底不服そうだが、謝罪した。
「すいませんでした。」
まぁ、謝罪は当然だ。俺は髪の色素薄い奴にとっては目上だし、俺の方が正論だ。
「俺が持った方がいい、と言ったのは俺が信用されていないからだ。誰も俺が巻物持ってるなんて思いもしねぇだろ。そこのよく穴に落ちてる奴が囮になるかもしれねぇがな。」
俺の提案に、伊作が眉を潜めた。
「ねぇ、もしかしてそのよく穴に落ちてる奴って、僕の事?」
「おう。悪いが、お前の名字はとうに忘れたからな。」
伊作はどこか複雑な表情で俺を見ている。
…んな顔で見られても困るぞ。てか、忘れるに決まってるじゃねぇか!何年まともに話してないと思ってるんだよ、コイツは。
「僕の名前は善法寺伊作。」
なんか、自己紹介された。そんなに忘れられたことが不服か。取り合えず、自分も自己紹介する。
「俺は月波雅斉。」
「知ってるよ。」
不機嫌そうに即答された。てか、名前忘れられたくらいで不機嫌になるなんて、なんて心の小さい奴だ、コイツは。
「自己紹介されたら自分もするのが礼儀だろう。」
俺が答えると、伊作はため息をついた。そして話を戻した。
「話を戻すよ。確かに誰も月波が巻物を持ってるなんて思わないだろうから、巻物は月波に預けよう。」
それからどんどん伊作が指示を出していく。