□楔2
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ちょうど話が纏まったところで、慌ただしく人が走ってきた。

「雅時!」

制服姿の小平太だ。至るところに泥が付着している。

「七松せんぱーい!」

「ちょ、ちょっと待って下さい七松先輩…!」

続いて現れたのは、体育委員の面々だ。こちらは小平太とは対称的に、心底疲れきっている。

「小平太、そなたの後輩が疲れきっているようだが。今まで委員会をしていたのか?」

「うん!皆で裏裏山までいけどんマラソンをしていた!」

雅時は体育委員の面々の様子を見て、激しく同情した。

「…それはそれはご苦労なことだ。早よう休むがよい。」

雅時の発言に、小平太は不思議そうに首をかしげた。

「ん?何言ってるんだ?雅時も一緒にどうかと思って誘いにきたんだ。」

「ちょ、もう終わりじゃないんですか!?」

「僕達もう無理ですよ!」

「明日、授業に出れなくなってしまうんだな…!」

「た、助けてください、雅時先輩!」

体育委員が必死に訴える。それを見ていた瑶子は、上品に笑い声をあげた。

「ふふふふふ、面白いのね体育委員は。」

「面白い、じゃないですよ!」

瑶子に抗議する金吾の様子を見かねて、雅時は小平太を見た。

「誘いは嬉しいが、後輩達は皆疲れている様子。今宵はこれで終わりにして、後輩達を休ませてやるがよい。」

「細かいことは気にするな!」

なんというか、相変わらずの小平太である。体育委員は雅時にすがるような視線を向け、瑶子は面白そうにことの成り行きを見守っている。

「全然細かくないであろう。そなた、細かいという言葉についてについて中々特殊な定義を持っているな。それか、根本的に間違えた定義なのかは知らぬが。」

「…雅時、何かあったのか?」

いきなり話題が変わった。相変わらずマイペースな奴だ。
が、雅時は何のことを言われているか分からない。

「何のことだ。」

「だって、今日の雅時はなんかいつもと違って無理に元気に見せてるみたいだったから。ほら、隠してることがあるなら言ってみろ!」

小平太の言葉に、雅時は内心で動揺した。確かに、今日は任務で幼子を殺めた罪悪感とそれによる戸惑いがあった。上手く隠せているものと思っていたのだが、そうではなかったのかもしれない。だが、説明するのは躊躇った。
よって、誤魔化す方を選んだ。

「私は普段通りだぞ、小平太。」

「そうか?」

「そうだ。そなたらしゅうないな。細かいことは気にするな、だ。」

納得がいかない様子で小平太は首をかしげていたが、細かいことは気にするな、という言葉を聞いて笑顔が戻った。

「そうだな!」

そして、小平太は体育委員の面々を見た。

「よし、今から皆で風呂に行くぞ!いけいけどんどん!」

一方的に宣言すると、走り出してしまった。体育委員の面々はマラソンではないことに安心して後をついていく。
それを見送った瑶子は、雅時にどこか呆れた笑みを向けた。

「雅時君、ひとついいことを教えて差し上げるわ。」

雅時は首をかしげる。

「貴方はね、自分が思っている以上に人に見られているの。自分に関心のある人など殆どいない、だなんて思わない方がいいわね。」

「…よく分からぬが。」

「取り合えず、自分を過小評価しないない方がいい、ということよ。」

「私は自分を過小評価しているつもりはないが。」

「そう。まぁいいわ。」

瑶子は自室に帰るべく、雅時に背を向けた。顔だけを雅時に向け、艶然と微笑んだ。

「じゃあね、また明日。」

「ああ。」

瑶子が去ったあとすぐに雅時は自室に戻った。瑶子のお陰でますます悩みが増えた。
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