難儀なことだ

□難儀なことだ12
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雅時は仰向けに床に転がり天井を見ていた。別に好きで転がっているわけではない。生憎、雅時はそんな変わった趣味の持ち主ではないのだ。
兵助が雅時に飛び付き、そのために今のような状況になったのだ。
兵助は雅時にしがみつき、その胸に顔を埋めている。なにも言わない。
幸い、肌寒さは感じない。時期的なものもあるが、人肌は暖かいものなのだ。
恐らく、普段から鍛えている自分たちなら風邪を引くことはないだろう。
だから、このまま眠ってしまおうと思い、目を瞑る。
が、兵助が突然自分の上から退いた。
雅時の近くで正座し、うつむいている。
兵助が自分の上から退いた以上、自分が床に転がっている理由もない。雅時は体を起こし、兵助と向かい合うようにして座った。

「落ち着いたか、兵助。」

兵助はこくん、と頷く。

「…はい。…すいませんでした。」

いつもとは違う弱々しい声音。
雅時はその様子にわずかに眉をひそめた。が、できるだけ穏やかな口調で言う。

「落ち着いたのならばよい。それで、何があった?」

「あの…」

兵助がぽつぽつと語り始める。
要約すると、以前からずっと一緒にいた友人が葵音の取り巻きになり、不安で寂しかったということらしい。確かに、今の五年生のほとんどは葵音の取り巻きだ。
たしか、兵助と同室の尾浜も葵音の取り巻きをしていたはずだ。
同じ状況にあるであろう竹谷は生物委員会の仕事で気を紛らわせることもできる。が、火薬委員会にはそこまでの仕事はない。
寂しさを感じるのも無理はないだろう。
それを考えれば、寂しくなって追い詰められていても何ら疑問はない。

「…なるほどな。兵助、今夜は私の部屋に泊まっていくがよい。」

「え…でも…。」

心底戸惑った様子だ。だが、このまま部屋に返しても尾浜から葵音の話を長々と聞かされて、より不安と寂しさを増長させるだけだろう。
そして更に追い詰められるのは目に見えている。雅時は親しい後輩のそのような姿を見たくはない。
立ち上がり、奥に敷かれた布団を示す。

「ほれ、早よう参れ。私はもう眠いのだ。」

「は、はい…。」

戸惑いつつも、兵助が布団に入ってくる。
兵助も雅時も男にしては華奢な部類だ。だが、十五歳と十四歳の男が一組の布団に入るのはかなり狭い。

「あの…先輩、俺やっぱり戻ります…!」

「ふむ、やはり手狭ではあるな。なれど、自室に戻ったところで長々と天女様の話を聞かされるだけだぞ。」

「そ、それは…。」

「よいから早よう寝るがよい。」

雅時は目を瞑った。
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