難儀なことだ

□難儀なことだ8
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葵音が指差している毒蛇。
まさかと思うが、先程の尋常ではない悲鳴の原因はこの蛇なのか。
雅時はそう推測する。
推測し終わった時、長屋の影に隠れている気配に気がついた。おそらく、生物委員だろう。今ここで出てくれば間違いなく面倒なことになる。だから、成り行きを見守っているのだろう。そんな生物委員に気がついたのか、毒蛇もそちらへ去る。
それを確認すると、雅時は自分の推測が正しいかをた確かめようと自分に抱きついている葵音を見た。

「天女様。取りあえず、外敵に襲われたなどではないのですね?」

「あ…うん、私、毒蛇なんて初めてで…。」

葵音の返答に、雅時は心底呆れた。
たかが毒蛇にそこまで怯えるでない、と咎めたい衝動にかられるが、なんとか耐える。

「…取りあえず、御身に大事ないご様子。安堵致しました。」

雅時は周囲の警戒にあたっている忍たまを見た。
雅時に対して羨望と嫉妬の眼差しを向けている五年生を見つけると、彼らに向かって声をかける。

「そこの五年生、天女様を医務室に送って差し上げるがよい。」

雅時の言葉に、声をかけられた五年生だけでなく葵音を慕っている忍たまが血相を変える。

「天女様がお怪我を…!?」

焦りが滲むその問いに、呆れ半分で雅時は首を横に振る。
外敵ではなく、葵音を気にする部分に呆れたのだ。

「違う。おそらく怪我などはない。なれど、念のため確認した方がよいと思うてのことだ。」

雅時の言葉を聞くと、彼らは露骨に安堵を表した。
そんな彼らに冷たい視線を注ぎながら兵助が寄って来る。

「雅時先輩、外敵は?」

兵助の問いに、雅時は満足げに笑った。
自分と親しい後輩が葵音に溺れていないことに安心したのだ。

「いや、天女様は外敵などではなくそちらの毒蛇に驚かれただけだ。…それで正しゅうございますか、天女様?」

「うん…。」

葵音はひとつ頷くと、申し訳なさそうに周囲の忍たまを見た。

「みんな、ごめんなさい。私、毒蛇見たの初めてで…。」

葵音の発言を聞いた周囲の忍たまは、葵音を慕う者とそうでないもので露骨に反応が別れた。
前者は、心底安堵している。後者(と言ってもごく一部)は心底呆れていた。
前者には田村、滝夜叉丸、三郎など。
後者には雅時を初め土井、兵助、恐らく敵と戦えると思って期待して駆けつけたであろう文次郎などだ。
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