難儀なことだ

□難儀なことだ6
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昼食を終えると、雅時は仙蔵、文次郎と共に教室に戻った。
まだ午後の授業開始までは時間があり、教室には三人以外いない。

雅時は自分の席につくと、溜め息をついた。
その様子を見て、仙蔵は意地悪な笑みを浮かべる。

「さて、あれほどお前の胸を踊らせた天女様はどうだったかな?」

「…分かっているというのに聞かぬがよいぞ。…期待外れであった。何がよくてあの女に侍るのやら。」

葵音とその取り巻きと昼食を食べた雅時は、何かと大変な目にあった。
葵音は雅時を気に入ったのか、雅時の隣に座り、食事中も何かと話しかけられた。邪険にもできず、いつも通り微笑んで適当に話を合わせ、時には社交辞令で美辞麗句を葵音に言った。
端から見れば、そんな雅時の様子は葵音を口説いているようにしか見えなかったのだろう。取り巻きに盛大に睨まれた。
偶然食堂にいた取り巻き以外の忍たまにも羨望の眼差しで見られ、葵音を警戒している一部には落胆の眼差しで見られた。
食事中の様子を思い出したのか、文次郎がどこか気を使うような視線を雅時に向ける。

「まぁ、お前も災難だったな。これであの女への興味は失せたか?」

文次郎の問いに、雅時はうんざりした表情で頷く。

「無論だ。もう二度と近付かぬ。」

もう一度溜め息をついた。


教室の入り口に数人の気配がする。
同級生数人がいた。葵音の取り巻きだ。

「九十九院!」

急に名を呼ばれた雅時は、その声の主を見る。声の主を始め、全員表情が険しい。
そんな同級生たちの様子に、文次郎と仙蔵は眉をひそめた。雅時もまた、険しい顔つきになる。

「如何なる用だ?」

「お前に話がある。来い。」

威圧的な言い方だ。雅時は仕方なく立ち上がる。

「よかろう。」

同級生達の方へ歩いていく雅時の制服の袖を仙蔵が掴んだ。

「雅時、やめた方がいい。」

「いや、行かないなら行かないで面倒だ。安心するがよい、すぐ戻る。」
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