難儀なことだ
□難儀なことだ3
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雅時が医務室に戻ると、伊作が笑顔で迎えた。
「おかえり、雅時。」
そんな伊作に対し、雅時もいつもの典雅な笑みをわずかに深くする。そして、まだ布団で眠っている女性を指し示した。
「ああ。女性はまだ目覚めぬか。」
「うん。さっき新野先生がいらして、女性を診てくださったんだ。」
「ほう、それで?」
「特に外傷もないから、多分だけどただ気を失っているたけだろうだって。それから、念のため見張っておくように言われた。」
恐らく、女性を診察した新野は女性をくのいちではないと判断したのだろう。
理由は、恐らく筋肉のつきかた。くのいちにしては、明らかに筋肉が少ない。
あと、身なりだろう。目立たないように行動しなければいけない忍びにとって、女性の身なりはあまりにも目立ちすぎる。
これだけで女性がくのいちではないと確信できるわけではないが、ほとんど間違いないと認識していいはずだ。
「そうか。まぁ、女性に大事無いようで良かった。」
雅時は空いている場所に脇息を置いて座った。脇息にもたれかかり、退屈そうに女性を見る。
「…なれど、ここまで何もないと退屈だな。」
そっと呟いた雅時の言葉には、期待はずれであったという気持ちが籠っていた。
それに対し伊作は、少し呆れているような困ったような笑みを浮かべた。
「雅時ったら、一体を何期待してたのさ。さっきはこの女の人のこと、すごい面倒くさそうだったのに。」
「面倒なことには違いないぞ。なれど、すこしはこの女性が面白いことを起こすものと思うて期待していたのだ。」
「面白いことって…。雅時の面白いことって僕みたいな凡人には理解できないことが多いんだよな…。でも、何もないのは幸運だよ。」
伊作の発言に、雅時は優雅に笑い、わざとらしく目を見開いた。
「ほう、不運の保険委員長殿が幸運を語るか。」
「な…酷いよ、雅時〜」
伊作がそう言い、どこか楽しげに拗ねた表情をする。
それを見ずに、雅時は女性を見て不敵な笑みを浮かべる。優雅さを兼ね備えていながら、どこか邪悪な笑みだ。そして、小さく歌うように呟いた。
「…この女性、我らの幸運の前兆か。それとも、大いなる不運の前兆か…。」
雅時は伊作を見た。先程の呟きは聞こえていなかったらしく、伊作は何か道具を準備している。
「伊作?」