放っておいてくれ

□放っておいてくれ12
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桐蔵と時生が来てから数日が経った。
二人は学園に来た翌日に、急に帰って悪かったという文を寄越した。その文には次に会う日取りが書かれていて、俺は今から楽しみだったりする。
そして新野先生から、実技以外の授業に出るお許しがようやく出た。
やっと保健室から解放された俺は、朝食を取るべく食堂に向かった。少し早めの時間だから、まだ人はいないはずだ。
が、俺の考えは甘かった。おばちゃんに注文して食事を受け取り、席に着こうと俺は周りを見渡した。
すると、隅の方に空いている席を見つけた。
なんて運がいいんだ、俺。
意気揚々と俺は歩き出した。
が、それを止めるように声をかけられた。

「月波せんぱーい、こっちでぇーす!」

しかも、大声で、だ。
…お前は俺に恨みでもあるのか。
純粋にそう思った。多分、今の俺の顔は引きつっている。
が、無視する訳にもいかない。仕方なく、声の主を見た。
声の主は、綾部だった。
会話できる距離ではないため、俺は仕方なく綾部に近寄る。
綾部と同じ席で食べていた四年生が戸惑いを露に俺を見る。
…なんだよ。恨むなら綾部を恨んでくれ。


「よぉ、久しぶりだな、綾部。何の用だ?」

「ええ、お久しぶりです。先輩とまだ蛸壺について語り合っていなかったもので。一緒に食べましょう。」


そう言い、綾部は自分の隣を指し示した。
…ふざけんなよ綾部。
どうやら、こいつは戸惑っている自分の同級生が見えないらしい。
大丈夫かお前の視力。ここは眼科医院の待合室じゃねぇぞ。
しかも、俺は別に蛸壺に特殊な思い入れはねぇ。

「お前一人で蛸壺について語ってろ。」

俺が冷たく突き放すと、綾部は何故か顔を輝かせた。
…え、なんで?

「本当ですか!?いやー、嬉しいな。僕の話を聞いてくれるんですね。」

…まてこら、誰もそんなこと言ってねぇ。
止めようとするが、綾部は俺の話を聞かずに俺の持っていた盆を取り上げると、自分の隣の席に置いた。
これはもう、綾部の隣に座るしかない。
綾部と同席していたらしい四年生に申し訳なく思い、彼らに頭を軽く下げ、綾部の隣に座った。
なんというか、朝から災難な俺である。
ちなみに、俺に頭を下げられた四年生がさらに戸惑ったことは、もはや俺の知ったことではない。

綾部の蛸壺の話を聞きながら、俺は適当に相槌を打ちつつ朝食を口に運ぶ。
同じ席に座っている四年生は、戸惑いつつも食べている。
一人で嬉々として蛸壺について語る綾部は、ぶっちゃけ浮いている。
俺がふと四年生を見ると、バナナみたいな頭の奴(←タカ丸。以後はバナナ頭と表記します。)が何故か俺を熱心に見ている。正確には、俺の頭部を、だが。
…別に俺は禿げてねぇぞ。
そうだ、俺は禿げているわけではない。しかも、頭巾を被っている。着目する点なんか何もないはずだ。

「俺の頭に何かついてるのか?」

何気なく聞いてみた。ちなみに、綾部はまだ話し続けている。それでも朝食が減っている辺り、こいつはすごい。
一体どんな食べ方をしてるんだこいつは。
ちなみに、俺から問われたバナナ頭はじっと俺の頭を見ている。

「えっと、月波雅斉君、だよね?」

「おう。」

…俺、こいつに借金なんかあったか?
俺はもしかしたらこのバナナ頭に借金があって、俺はその取り立てをされているんじゃないか。そう思うほどにバナナ頭の俺を見る目は真剣なものだ。
…俺は借金なんてねぇぞ。
少し警戒する。
が、そんな警戒をよそにバナナ頭はアホなことを聞いてきた。
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