放っておいてくれ

□放っておいてくれ11
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騒々しく去っていく雅斉と保健委員らを見送ると、桐蔵と時生はかつての同級生達に背を向ける。
そして学園を出ていこうとするのを、留三郎が慌てて止めた。

「おい、どこ行くんだよ。」

慌てた様子の留三郎に対し、二人は振り返ると桐蔵が冷然と告げた。

「帰るに決まっているだろう?雅斉には相手をしてもらえなさそうだからな。」

「も、もう少しくらいいてもいいんじゃないか?」

「何故?」

「それは…。」

留三郎は、言葉に詰まる。言う言葉が見つからず、うつ向いてしまった。この場にいる仙蔵、文次郎、伊作、長次、小平太も同様だ。
そんな元同級生達を、時生は煩わしいと言わんばかりの表情で一瞥すると、桐蔵を促す。

「帰るぞ、桐蔵。」

「ああ。」

再び背を向けて歩き出す二人。
そんな二人を、次は文次郎が止めた。

「待ってくれ。…桐蔵、時生、その、すまなかった。」

いきなりの謝罪に、桐蔵と時生は足を止める。二人は振り返らず、顔だけを文次郎に向ける。桐蔵は相変わらず冷然と文次郎を見ている。

「何に対する謝罪かな。」

「お前達を信じなかったことに対する謝罪だ。あの時、お前達は雅斉はやっていないと言っていた。だが、俺達はそれを信じなかった。悪かった。」

文次郎が言っているのは、彼らが一年生の時のこと。時生が崖から落ちたとき、桐蔵は雅斉が時生を突き落としたのだと言っていた。殆どの者は、桐蔵の発言を信じた。
だが、時生が目覚めたときにそれが間違いだと分かった。慌てて訂正したが、誰も信じなかった。勿論、文次郎達も。
今回の謝罪は文次郎達が、訂正されたことを信じなかったことに対してだろう。
謝罪を受け、桐蔵は今回初めて表情を歪めた。悔しさと後悔、そして決意がこもった表情だ。

「それについては、僕に謝罪するのは 間違っている。そもそもの原因を作ったのは僕だ。僕は、それに対しては怒っていない。僕が怒っているのは、君達が雅斉にした嫌がらせだ。」

声音にも、表情と同じような感情が滲んでいる。
雅斉が時生を突き落としたのではないと分かった時、桐蔵は泣きながら謝った。
そんな桐蔵に対し、雅斉もまた心底嬉しそうに泣きながら

「俺はお前がそうやって謝ってくれただけで十分だ。また仲良くしような、親友。」

と声をかけてくれた。その時、すでに雅斉は同級生に嫌われていた。その時は今と違って、たくさん傷ついていた。その原因を作った自分に対し、言いたいこともたくさんあっただろう。
それなのに、雅斉は自分のことを親友と呼んでくれた。自分に対して言いたい言葉の全てを飲み込んで。しかも、心底嬉しそうに。自分もまた、嬉しかった。取り返しがつかないことをしたのに、彼は笑って許してくれた。そのくらい、雅斉は自分を大切に思ってくれていたのだ。だからこそ、自分だけは絶対に雅斉を守ろうと思った。
この時から、雅斉を一生の親友だと思っている。
その時のことを、桐蔵は絶対に忘れない。
だから、雅斉を疎み嫌がらせをしていた同級生達を許せない。自分が原因だと思っていても、だ。
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