放っておいてくれ

□放っておいてくれ7
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「に、新野先生…。」

新野先生を呼んだ俺の声は、あとで考えてみればさぞ情けないものだっただろう。自分でも分かるほどに声が震えている。てか、何でここにいるんだこの人。
顔をひきつらせる俺に構わず、新野は冷たい声で問う。

「保健室にいないと思えば、何をしているんですか。」

普段は穏和な彼であるが、今は普段の穏和さがまるでない。同じ人間がこうも変われるのかと感心するほどである。無論、今の雅斉に感心するほどの余裕など微塵もないが。
新野は、間違いなく激怒している。俺は必死で言い訳を考えた。何とかして彼の怒りを鎮めなくてはいけない。

「いや、その…。学園の危機です!」

…何言ってるんだ俺。なんかだか、痛々しい少年のような発言である。
新野の視線は、どんどん冷たくなっていく。

「何言ってるんですか、君は。」

声音も、冷たいものだ。
教室に戻りそうになるが、俺はかろうじてそれをこらえた。俺の推測通り、同級生らの態度が敵の幻術によるものなら、学園の危機であるということは間違いないのだ。同級生らがどうなろうと知ったことではないが、下級生に害が出るのは見過ごせない。彼らは俺を嫌ってはいるが、嫌がらせを俺にしたことはないのだ。
だから、こんなところで保健医に敗北するわけにはいかない。俺は覚悟を決めた。背中の傷は痛むが、そんなことにこだわっている場合ではない。
ひとつ深呼吸をすると、俺は新野先生を見据える。
そんな俺に気づいたのか、新野先生は僅かに困惑した様子を見せた。それを好機と捉え、俺は走り出した。
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