放っておいてくれ

□放っておいてくれ6
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結局、昼飯は食べ損ねた。医務室から慌てて食堂に行ったのだが、間に合わなかったのだ。不機嫌になりながらも教材と筆記用具を持ち、六年い組の教室に入る。
教室に入ると、やはり注目された。いつものことなので無視する。
が、向けられる視線の種類が、いつもとは違う。
それに違和感を覚えた。いつもは敵意に満ちた鋭い視線なのだが、今日は鋭さがまるでない。変わりに罪悪感や戸惑いと言った類いが満ちている。
雅斉は顔をひきつらせた。鋭い視線になれているせいか、今受けている視線が気持ち悪くて仕方ない。
…善法寺とその仲間たち(仙蔵、文次郎、小平太、長次、留三郎)といい、今日は全員がおかしい…!てか、マジで気持ち悪いぞ。あ、冷や汗まで出てきた…。
自分の席に着くと、一人が近付いてきた。

「なぁ、お前、顔色悪いが背中の怪我、大丈夫なのか…?」

おずおずと話しかけられた。
…いつもなら嫌みしか言わんくせして一体何なんだ…!てか、顔色悪いのはお前らのせいだよ!
内心ではそう思うが、言うと何かと面倒なので言わない。無表情を作り、相手の顔をみた。相手は、隈野郎だ。

「問題ない。俺は午前に起きたばっかで風呂に数日入れてねぇから近付くな。後で臭いだのなんだの言われても迷惑なのでな。」

「…今まで悪かったな。」

謝罪された。しかも、心底申し訳なさそうに。勘弁してくれ。

「今更言われても困る。」

突き放すと、他の奴まで近付いてきた。全員心底申し訳なさそうに頭を下げる。

「本当にごめん。」

「すまなかった。」

などなど、たくさんの謝罪を受ける。雅斉からしてみれば、いきなり今までのことを謝罪される意味がまるで分からない。
…意味分かんねー…。一体何の宗教だ。嫌いな奴に謝る風習がある宗教なんて、酔狂の極みだな。
意味も分からず謝罪を受けるというこの状況に苛立ちを感じる。
謝罪をしてくる同級生を見た。

「あのな、いきなり謝られても意味がまるで分からん。それとも新手の嫌がらせか!?」

不機嫌を隠そうとせずに言うと、雅斉の周囲にいた同級生が慌てて首を振る。

「ち、違う!今までのこと、本当に申し訳ないと思って…!」

「はぁ!?なんでいきなり申し訳ないと思うんだよ?」

…あ、ヤバイ。俺キレてる。まぁ、いいや。これくらいは許されるだろ。
相手もキレるかと思ったが、うつ向かれた。何でだ。
俯いた奴を見かねたのか、サラスト野郎が俺の前に出る。
…無駄に綺麗な髪だな。
なんて感心していると、サラスト野郎は語り始めた。

「前の実習で、お前は伊作を庇って怪我をしただろう?伊作も私達同様、お前を嫌っていた。そんな伊作のことをお前が庇ったことで、私達は決心したのだ。」

…決心って何のだよ。意味分からん。でも聞くと話が長引きそうなので適当に流すことにした。

「へー。」

「…人が大事な話をしているのだぞ!真面目に聞け!」

サラスト野郎は俺の態度が気に入らなかったらしい。怒られた。…うわ、こいつ面倒くせぇ…!しかも、俺にとっては大事な話じゃなくて面倒な話だぞ。

「分かった、真面目に聞くからさっさと終わらせてくれ。」

「…私達は本当は、お前が時生を突き落としていないことには気付いていたのだ。だが、気付いた時にはもう遅かった。」

「それで?」

「私達は過ちを認めることができなかったんだ。そして罪悪感からお前に嫌がらせをした。」

…なんて下らない理由。アホか。

「…なるほど。俺は長年お前らの自分勝手な八つ当たりを受けてきたのか。」

俺が今のサラスト野郎の話を要約して言うと、サラスト野郎は俯いた。

「そうだな。お前の言うとおりだ。昔のように仲良くしてくれとも、許してくれとも言わない。だが、私達がお前に対して本当に申し訳ないと思っていることは分かってほしい。」

…俺って昔こいつらと仲良かったのか。盛大に覚えてないな…。まぁ、それはいい。一つ知らなければいけないことがある。

「別に俺はお前らから受けた嫌がらせの一つ一つを覚えてなんていない。金輪際一切俺に嫌がらせをしないのならそれでいい。今まで通り、俺のことは忘れてお前らは仲良くやってればいいんじゃないか?」

「…お前は私達と今からでも、昔のように仲良くやろうとは少しも思わないのか?」

「思わんな。というより、その発想すらなかった。」

「…そうか。」

サラスト野郎を始めとした俺の周囲が気落ちしたように項垂れた。
…なんか、新月の夜もびっくりの暗い空気だな。
重い空気に嫌になり教室の入り口を見ると、扉の隙間から教師が気配を消して覗いていた。気を使っているのだろう。が、雅斉にとっては余計なお世話だ。まぁ、授業をサボれていいと言えばいいのだが。
隈野郎はあまり気落ちしてなさそうに見える隈野郎を見る。

「おい、隈野郎(文次郎)。聞きたいことがある。」

「…隈野郎って俺のことか?」

隈野郎が嫌そうに問う。
…いやいや、お前の特徴、隈と老け顔しかねぇだろ。隈の方が老け顔よりマシだよな?俺は気を使ったつもりだ。第一、お前以外に隈ある奴なんかいないしな。

「それ以外に誰がいる。隈で不服なら老け顔でもいいぞ。」

「んだとコラ。」

隈野郎が顔をひきつらせた。が、周りからは笑い声がし始める。

「間違ってないな、文次郎。」

「うん、俺らもそう呼ぶか。」

笑う周囲を、隈野郎は睨み付けた。そして俺を見る。

「俺は潮江文次郎だ。隈野郎でも老け顔でもない。お前、本当に覚えてないのか…?」

文次郎は問うが、俺はそれどころではなく唖然とした。
…潮江って、俺のこと心配してるって聞いたんだが…。まさか、こいつが?いや、同じ名字の奴が二人いるんだな。うん、納得した。
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